マンゴーにはなれそうもない
「・・俺、今、
彼に凄く睨まれたんだけど。」


足立くんが出て行った後ろ姿を
見ながら呟いてた。

まさかあたしが赤裸々に昨日の事を
話したとは思っていないらしい。


「そお? 何になさいます?」

「怒ってるし・・。」

「気のせいじゃない? 」


どうせミルクティーだろうと、
あたしはポットを取り出していた。


「悪かったよ、ごめん。」

「何が悪かったの?」


怒っている理由が解らないのに
取り合えず謝ってくる男は嫌いだ。

有無言わせずさっさとミティーを
カウンターに出して厨房へと
引っ込んで行った。

顔も見たくない・・。

諦めて帰ればいいものを
彼はラストまで居座った。

店のシャッターを下ろすと
ちゃんと後に待っていらっしゃる。

当然、無視。

ただ・・さすがにすんなりとは
帰して貰えそうになかった。

肘を掴まれ
歩き出そうとするのを阻止。

あたしは鼻から抜ける溜息で
彼をキッと睨み上げてる。


「その先輩に伝えといて。
一度、"M役"をやってみないかって。」

「・・・・!」

「マトモなHしかできない男ばかりで
タイクツしてますからってね!」


勢いよく彼の腕を振りほどく。
年下男のあの顔・・。
きっと今、頭の中真っ白ね。

自信喪失で
イ○ポにでもなればいいんだわ。
ザマーミロ。

ふんっ、と体を翻し、
あたしは自分の車に乗り込んだ。

バックミラーに映る彼を見ながら
角を曲がる。

これで、
あの先輩にホントに言ったら?

「やってやろうじゃない・・!」

ふと強気な独り言を言った後で。

(ホントに言われたら・・
あたし、またショックじゃん・・。)

・・・バカなあたし。


「フン 本物のローソクで
再起不能にしてやるわよ。」


ヤケっぱちのS女は怖いんだから。


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