マンゴーにはなれそうもない

「まー・・、なる様にしかならないよ。
俺はいつ別れてもいいと思ってるし。」


あたしにももう一杯、チューハイを
注文してくれると彼は笑った。


「心配すんな、
俺にはお前と云う女がいるし。
イザとなったら拾ってやってくれ。」

「フフ、あたしが足立くんをー? 」

「何だ、嫌か?」

「ぷっ・・フフ、考えとくわ。」


"拾ってくれ"なんて云われたの、
初めてでつい笑ってしまう。

2時間ほど飲んだだろうか?
いつもよりぺースの早かった為か
先に彼が少し酔ったらしい。


「マスター、タクシー呼んで?」

「あいよ」


彼のマンションと
あたしの家は結構近い。

介抱とまでは行かないが、
ちょっと心配になり
部屋まで彼を送って来ていた。


「悪い、鍵、開けてくれるか?」

「解った・・しっかり立っててよ?」


彼から鍵を受け取り、それでも
腕は放さずドアを開けてやった。

靴を脱がせ、
閑散とした部屋に上がりこんでいく。

ベッドに寝かせてから
タイを少し緩めてやってた。


「何か冷蔵庫にある?」

「ああ・・。」

「・・足立くん・・・?」


彼が、あたしの手を握った。

ふと思い出す、この眼差し・・。

中学生の時、友達の家で遊んでいて
階段を降りる手前で
躓きそうになったあたしを肩を掴んだ。

振り向かせた時の、あの目。

何か云おうとしていたかにも思えたが
結局、彼は"気をつけろ"と云っただけ。


「どうしたの? 待ってて・・
今なにか取って来るから、っ、」

「________ 行くな」


グイと手を引き、首に腕を回す。
あたしは中腰状態の妙な体勢で
彼の手をやんわり解こうとする。

それでも一向に緩まない手の力に
あたしは内心ヒヤリとしていた。


「ねえ、痛いってば。」

「そんなに俺のこと・・嫌か?」

「え、何いってんの・・。」


そんな事、
急に云われたって困るじゃない?

足立くんは足立くんで・・
いい男友達だと思ってたから。


「少なくとも・・酔った勢いで
口説かれるのは好きじゃないわよ。」

「酔ってないよ」