マンゴーにはなれそうもない
「何よそれ・・! 殆ど・・!」


その日の午後、
店にひょっこり顔を出した絵麻が、
迂闊に言いかけた言葉を飲み込んでた。

まだ1人、バイトが残ってたから。


「・・・かな。」


渦中の足立は
その後も変わりなく店に来ている。

実は今日も
絵麻と行き違いのタイミングだ。

何もなかった様に振舞ってくれたら
良かったのだが
人前で「瑠璃」と、
名前を呼び捨てする様になってた。

嫌でも、パートさんやバイト達が
訝しげに彼をこっそり見ていたっけ。


「年下、どーすんの?」

「・・どうするも何も、彼には・・。」


別の女のコがいる・・と、さっき
彼女にも正直に全て話したのに。


「でも、顔が浮かんだんでしょ?」

「うん・・・・何でだろね。」

「・・・好きなんじゃない?」

「まさか」


磨いたばかりのシルバーをしまい、
あたしはつい絵麻の言葉に溜息。


「足立くんね・・焦ったんだって。
彼が急接近したもんだから・・。」

「へーえ・・? お。ねェ、あれ!」

「・・・あぁ。」


絵麻が入って来た車を顎で指す。

もう、年下男も足立くんも、
どうでもいい・・。

そんな鬱な気分で
店に入って来た年下男を見ていた。


「ハッパ、切らしたわ・・。
ちょっと待ってて。」


ニヤニヤしてる
絵麻の隣に座った彼に言ってから
奥に引っ込んだ。

どうせ今日も紅茶なのだ。
ヨソで飲めばいいのにと毒づきもする。

なのにあたしは・・
厨房の壁に掛かってた鏡で
首筋のチェックをしていた。

どこまでバカなんだろう、あたし。

例えキスマークが付いていても
今更・・・。

あたしはアッサムを手に
カウンター内側へ戻って来た。


「あれ・・絵麻は?」

「ああ・・帰ったよ?
お金だけ残して行ったから。」

「あ・・そう。」


彼からお金を受け取ろうとして
出した手をいきなり捕まれた。

心臓がクチから飛び出そうな位、
ビビッた・・。

まさか、彼女・・?

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