マンゴーにはなれそうもない
「あっ・・!」


走り出して振った手首を掴まれ、
振り払う反動で
勢い良く弾き戻されてしまった。

恐れていた
その腕の中に肩を抱き止められ

らしくもなく心臓の動きが
途端に激しくなって嫌に苦しい。

きっと、酒のせいなんだろうと思う。

身を縮めながら、
抜け出そうとするのを阻む腕。

顔も見上げず、
動揺を隠す低い声でなじった。


「・・いい加減にして。」

「だったら避けるなよ。」

「知らない人に着いてっちゃ
いけないって親は言うでしょ?」

「知ってくれようともしないクセに。」

「・・・早く放して。」

「レズじゃないだろ・・?」

「ザンネン、・・! 」


ようやく腕を解いたかとホッとすれば
伸びてきた左手が顎のラインを取った。

いくらヒトケがないからって

あんなマネが人前で出来る男だ
こんな事・・朝メシ前なんだろう。



「イ、・・ンっ・・!」


黙らせるかに押し付けられる
柔らかな彼の欲望

誰もいない、
自動販売機まで押しやられて
ドン・・!と、音がする。

薄らに目を開け、
あたしの様子を窺う
彼の辛そうな美しい顔に動揺した。

お陰で舌が絡んだ時
不覚にも、ビク! と体を揺らし

つい彼のジャケットの袖を
ギュッ・・と握り締めてしまう。

求められて・・濡れる音、
乱暴さと裏腹な甘く柔らかな動き、

抵抗を試みる度、
猫みたいに宥められながら

髪を撫でる手の優しさに
塞ぎっ放しの唇から吐息がもれた。

伝わってはいた、
彼の本気な気持ちが。


ただ
受け入れる事が出来なかっただけ



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