マンゴーにはなれそうもない
「おつかれ様」

問題はこの時間帯・・4時~5時。
暇なのでやっぱりバイトを帰した。

「フウ・・。」

煙草に火を着けてレシピに目を通す。
後でスパイスの在庫のチェック
しなくちゃ・・なんて考えていた。


「いらっしゃい・・、あ。」

「よ・・・。」


人の気配にドアの方を見ると
見慣れた顔が、毎度の挨拶で
カウンター席に腰を据えていた。


「足立くん、コーヒー?」

「ああ」


なんだろう・・機嫌悪そう。

彼の言葉に、
耳を集中させてしまってるのか
空気が張り詰めるとBGMが小さく感じた。

あたしはいつも通りのつもりで
コーヒーを彼に出す。


「今晩、ウチに来ないか。」

「・・・・・・。」


ゾワリと背筋が凍る・・。

視線を上げると腕をカウンターに置き
じっとあたしの顔色を見ていた目。

あたしと云う女を知っていて
カラダから先に口説こうとしてる。

彼って・・そんな卑怯な男だった?


「・・・行かない。」

「何で?」

「カレシ・・できたの・・。」

「アイツ・・?」

「うん・・そう・・。」


彼は置いてあった携帯を握り取り
ポケットにしまい込む。

これは女のカン・・
まだ彼女とも別れていない様だ。


「俺とはまた・・フリダシか。」

「うん・・そうね。」

「・・・・・・!」

「足立くん・・・!?」


ジャラリとキーホルダーの音、
ガタンとなる椅子の音がほぼ同時。

勢いよく出て行った彼のせいで
ドアが暫く揺れて動いたまま。

出したコーヒーも
まだ半分しか飲んでない。


「・・・・・・。」


ごめんなさいも言葉に出来なかった。
気を持たせてしまった事・・。

だからあたしは彼を責められない。

優弥の事を
"どっちでもない"と答えたのは
自分でも気持ちが解らなかったから。



なんとも後味の悪い終り方・・。



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