マンゴーにはなれそうもない
ユーウツな朝に限って
ロクな事はありゃしない。


「いらっしゃい・・ませ」

「繁盛してるじゃない。」


近所にある、ウチより古くて
大きな喫茶店のママさんがご来店。

挨拶をしたパートさんが引き攣ってる。


「客が減ったんで偵察に来たのよ。」

「・・へえ。」


厨房でフレンチ・トーストを
焼いていた手も止めず、
パートさんの報告に低い声の反応。


「B2アガリ。二番にお願い。」

「ハーイ。」


トングを持ったまま、あたしは
カウンターから少し様子を見てる。

今モーニングを食べてるお客の中には
前の店長が逃がした客が沢山いてる。

嫌な予感・・。


「暫く見ないと思ったらここで?
へー、そうだったのォー・・。」


案内なしにツカツカとママは勝手に
店のホールを奥まで歩き、

かつて自分の店の常連だった
営業マンや、銀行員、郵便局員らに
イヤミを込めて挨拶して回ってた。

ウチが取り返した客は皆、苦笑い。

挨拶しないわけにも行かない。

あたしは一応の営業スマイルで、
カウンター越しに会釈した。


「いらっしゃい。」

「店長変わったんだわね?
モーニング、頂ける?」

「どうも、少々お待ちを。」


バイトに水を持たせる際、
他の客から離して入口よりの席へ
案内する様に小声で言っておいた。

さすが夜もお店を
切り盛りしているだけあって
歩き方も
振り向いた笑顔も貫禄がある。

夜会巻き、朝から気合入った化粧、
今時?な長いタイトはいて、
ぱっつんぱっつんの・・ムチムチ。

こんな
忙しい時間帯に奇襲を掛けるとは
よほど客が減ったに違いなかった。

Cセットの玉子サンドを注文し、
たった一口だけ食べた後、

席を立って
また店内を一回りしてから
サッサと帰って行った。


「店長~、これ見て! ひどーい。」

「・・・。」


バイトが引き上げてきたものも
見なくても想像がつく。

コーヒーにもロクに手をつけず、
出した水が混ぜられて
カップにナミナミと注がれてた。

一番解りやすい嫌がらせ。

まさか、これがランチにヒビクとは。




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