マンゴーにはなれそうもない
いつも日替わりランチを食べに来る
大手会社の営業達がその日、来なかった。


「やー、今日は参った。」


その会社の常連が3時頃、
気を使ってコーヒーを飲みに来た。

「たいした得意先でもない」が、
会社のしがらみとやらで
暫くは向こうの店に通うそうだ。


「・・そ。じゃ、また
戻って来てくれるんでしょ? 
だったら許してあげなきゃねぇ?」

「店長、今日は天使みたいだ~。」


とは、客に云ったものの
あたしの頭の中では
マイナス分を弾き出してる。


「聞いた? テンシダッテ!」

「今日は。だろ? イツモハ、オニダシ!」

「ムカ。 あんた達は、もー帰れっ。」


・・早速、人件費、減らさないと。






「そんな事ってあるんだ・・。」

帰り、駐車場で待っていた優弥が
浮かない顔のあたしに
"なんかあった?"って顔を覗き込むから。


「ホント、冗談みたい・・
こんな事ならサンドにビッシリ
唐辛子でも挟んでやるんだった。」

「いーな、それ。フフ」

「ハア」

「めげるなよ・・もう。 オイデ」


溜息でシートにもたれると
ハンドル片手に肩を引き寄せた。

頭をナデナデされてる
店長のハズな・・あたし。


「・・・・・・。」


チラリと見た年下男の顔は何だか少し
嬉しそうにも、満足そうにも見えた。

でも・・こうされると気持ちイイ。

すうっと、クシャクシャした気分が
頭のてっぺんから抜けていく感じ。


コウちゃん以来・・
こんな事されなかったかも。

そう思ったら、あたし今まで
ロクな男と付き合ってなかった。

いつもセクシャルな部分だけ・・

本当に欲しかったのは・・こんな、
"甘やかす手"だったのかもしれない。


薄べったい大きな手にちょっと感謝。

そして昨日、面倒クサイとか
"携帯取らなかった"事・・


「ごめんね」

「ん、なに?」

「・・・・・グチって。」


( ・・・云えない。)

彼は一回、チラッと見て
視線が目より下へと移ったかに思えた。


「・・・・デ、ユルス。」

「へ?」

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