マンゴーにはなれそうもない
「かわいい・・」


あたしを放さないまま
フゥと興奮気味の息を整え
ウットリしてる様な、
高揚の声を耳元で聞かせるのだ。

勝手に独りで満足して・・。

そんな彼にムッとしたが
逆らえなかった・・

前とは比にならない感じるキス。

自販機と彼の腕の温かさを背中に
情けなくも脱力していたのだ。


「・・気が済んだら放して」


まるで負け惜しみ、
憎たらしい事を云う・・と、我ながら思う。

流されるのは嫌い、
思い上がらせるのも大嫌い。

彼が腕を解いた途端、
薄いけど叩き甲斐のある
広い胸を跳ね除けるかに離れた。


(何もかも酒のせいだってば‥)


フラつく足を悟られない様に立て直し、
直ぐにバッグから
パクトを出して口元を映した。

これじゃ
人前には出られそうもない。

少し手前のベンチで
化粧直しをしようと腰を降ろす。

ゆっくりと近づく影に
慌てて口紅を塗り終えていた。


「ねえ、前にも云ったけど、
俺、本気なんだって・・。」

「それ云って、何がしたいの?」

「・・・・怖いの?」

「なんだ、ヤリタイだけ?」


質問に質問のお返しで
会話が全然成り立ってない。

本音しか云えない、
ただの可愛げのない女だ。

いったい、ドコがいいんだか。


「あのさぁ・・・。」


立ったままポケットに手を
入れて苦笑いしてる彼の、
そのヘンな余裕も気に喰わない。

彼を睨むように
見つめてから溜息を盛大に吐く。

彼と同じ駅で
降りなければならないのに
仲良くなれそうもなかった。


「他の子にして。」


そう云えば何処かに行くだろう。

・・・普通なら。


「・・・怒ったの? 」



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