マンゴーにはなれそうもない
ふと過ぎる、
悪戯電話の犯人のこと・・。


「殴らせれば良かったんじゃん・・。」


弟の声にはっとなる。

あたしは新しい煙草の箱を手に
1本取り出そうとしてた。


「 ・・・火。」

「アイサ! でも・・ルリちゃん
吸いすぎてるって、体に良く・・ハイ。」


家に帰って来たあたしはリュウと
台所で向かい合ってバーボンを呷ってる。

弟は突き出されたグラスにまた
一杯、注いで氷を足してくれていた。


「彼、アア見えて公務員だからね。」

「んなの、ほっとけばイイのに!」

「・・・。」


足立の言う事を鵜呑みにはしてない。

だけど、"出張先の帰り"とか、
そんな込み入った嘘もつくだろうか?


「いいよ、明日
白黒つけて砕けてくるから。」

「俺の胸でよければ、
使いたい放題だから! ね?」

「泣くほど傷も深くないっての。フフ」


結局・・
ヤリたかっただけ、だったのかな?

ああ、潤ってきたハズのココロが
また干上がっちゃいそう・・。

頬杖着いて、燻らす煙の向こうに
同じ仕草の心配顔と目が合った。

殴らせれば良かった、とも思う。

けどリュウは
あたしの不倫してた過去を知らない。

"泣かされる役"が、
とうとう回ってきたか・・そんな気持ち。

そう思うと
云えたり、殴らせたりする
義理や権利があたしにはナイのである。

相談しといて、心の内を伝えないとは
なんて悪い奴だ。

ごめんね、世界一カワイイ弟よ。


「ネエ このチリ・ビンまだあるの?」

「あるよっ。」


弟が作ったヒヨコ豆のチリ・ビーンズを
ぱくぱくお箸でツマミながら思う。


「リュウ・・、あたしって、手が焼ける?」

「え? なんで?」

「なんとなく」

「俺はいっとくけど好きで
ルリちゃんの面倒みてるだけだぜ?」

「フ、モノズキ・・・。」


フフン、とフライパン片手に
振り向いて口角を吊り上げる
あたしの butter boy・・。


・・何であたしたち兄弟なんだろ。
あんたみたいなカレならラクなのに。

さぁーて、明日はどうしてやるかな・・。


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