マンゴーにはなれそうもない
実際、昼過ぎには忙しくて
そんな事も忘れかけていた。

「店長~、黄身抜きの
玉子サンドお願いしまーす。」


「OK」


厨房から、
いちいち客の顔を見なくても解る。

遅い目のランチを取りに来たのは
外人客だろう、近くの大学の教授で
ダイエットの為、黄身を食べない。

さすがに鍛えられていて
超が着くほどカッコイイ体をしてる。

春がやってくると他にも妙な
オーダーがいくつか通ってくるのだ。


「店長~、ミートスパ、肉抜き・・」

「無理っ。」


サンドを切り分けながらツイ笑う。

最近はベジな人も多いんだけど
今のは常連の留学生のジョークである。

ウチのアホなバイトをからかって
楽しんでいるのだろう。


「ねー、店長?
バナチョコ・パ、バナナ抜きって?」

「いいよ、プリ・パの金額で。
クリームどうしようか聞いてね。」


ココアのプリンパフェがいいらしい。

全て掛かってたオーダーを作り終り
煙草を吸って一息いれ、耳を澄ましていた。

若い女の子の二人連れらしい。
バイトの声が交差してる。


「店長、ホイップで」

「OK・・?」


戻った子が返事の仕方に首を傾げた。

あたしはその子に人差し指を
シイッと口元に立てている。

クスクスと・・
バカにした様な笑い声が聞こえてきた。


「・・聞いた?”バナナお嫌いですか?”
だって。誰かさんじゃあるまいし。」

「翔子ったら・・!」


・・なかなか
興味深い話をしている。

そう思ったら、
その客の顔を拝みたくなった。

席はカウンター前のテーブル、
常連ぐらいしか使わない席だ。

ひょっとしたら、
ひょっとするかもしれない。

これまた、オンナのカンである。


( 楽しくなりそうじゃない )


厄介なケチが着くと困る。

珍しくポケットのバンダナを被って
作り終えるとバイトを休ませた。

出口側に背を向けて座る女が
厨房から出て来たあたしを目で射抜く。


・・・アタリかもしれない。

あの目は
本妻が愛人を見る目によく似ていた。



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