マンゴーにはなれそうもない
「お帰り。」


あたしが店で
こう云うのは仲のイイ常連のみ。

もろB系のキャップに
デニムセットアップを着た
リュウが閉店30分前に到着した。

さっき厨房からうったメールで
何となく理解は出来てたみたい。

イカツイオーラ出しまくりで
優弥と同じカウンター席に座る。

対照的な2人、漂い出す嫌な空気。


「アイコ」

「OK」


家ではありえなく態度デカ。

2つ向こうの優弥をジロリ、
ダボついたジャケットを抜いでいた。

Tシャツから肉体労働系の腕。
弟は時々、そんなバイトをしてる。


「お待たせ。」


グラスを手に取りストローも使わず
グビッと一口、そしてまた優弥を見る。

また、あたしの方に向き直ると
弟はダルそうに首を傾けて訊ねた。


「前カレ?」

「・・そう、前カレ。」

「・・・!」


背中で「ごちそうさま」を聞く。

今カレから元カレにランクダウン、
ショックはあった様だ。

彼はチケットを買っていない、

レジで精算をする為
あたしが出なければならなかった。

支払いを済ませてもまだ呆然と
レジ横に立っている優弥。

チラリとカウンター席を見遣ってから
躊躇いがちに訊ねるのだ。


「・・俺は一度、貴方を許したよね?」


お互い様だって云うの・・?

やっぱり開き直るんだ?


「そうね・・おあいこ。でも・・」


もっと大人だと
彼を買い被ってた自分が情けない。

胸を一度弾ませ、その顔を見上げた。
彼の動揺が瞳の潤み加減で解るのに・・


「貴方には、あの子の方が似合ってる。」

「・・・!」

「さよなら」


怒った顔を一瞬見せたかと思うと
目を閉じ、体の中に溜まった空気を
吐き出してる。終わりを諦めたのだ。

そして静かに閉じて行くドア・・。


「落下、し損ねたね。」


優弥が出て行った途端、
いつもの弟に戻ったリュウが
後で淋しげにポツリと云った。

あたしは残念そうに笑い
その肩をポンと叩いて通る。


「玉砕しないで済んだわ」


傷ついて 落ちたまま、
置き去られるなんてイヤ・・。


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