マンゴーにはなれそうもない
「何だ?」


足立のその目を見れば、多少なり
やましい事があるのは察せられた。


「もう怒ってないから、
正直に答えてよ? いい?」


確かに・・怒ってはいない。

今の時点では彼の浮気の事を
知らない方が良かった・・なんて
八つ当たりに近いものはあったが

もし・・・そうなら
確実に足立を嫌いになれるだろう。


「ああ」


彼も覚悟が出来たか
灰皿に視線を落としている。

あたしはそれが気になってつい、
新しい灰皿に取り替えてやった。


「いつ・・、彼と接触したの?」

「・・・・・・・偶然、得意先でな。
何でも、消防の監査だったらしい。」

「・・・・。」


カウンター内の椅子に腰を降ろし、
煙草に火を着けながら彼を見上げた。

「フー」と云う息に反応したかに
彼もやっとあたしと目を合わせた。


「・・疑問だったの、
そう・・これでスッキリしたわ。」


やはりそうだった・・。

最初はまさかと思っていたが
足立本人しか考えられなかったのだ。

しかし彼が謝ることはなかった。

あたしも、
これ以上蒸し返すのはやめた。

足立はあたしから
優弥を遠ざけたかっただけ。

ライバルに勝つ為なら
手段を選ばなかった・・彼のやり方。

どうせ足立も

「酒を飲ませて強引にヤッた」とは

優弥に云う訳がない。



きっと・・向こうは向こうで
あたしの事が
やっぱり許せなかったんだろうと思う。

自分の気持ちを知っていながら
酷い女だと軽蔑してたかもしれない。


「瑠璃」

「もういいのよ、
正直に云ってくれて有難う。」


無理に笑うあたしからのその言葉は
恐らく足立を落ち込ませるだろう。

痛みを感じないほど彼が
無神経な男ではないことは知っていた。

ほんの小さな復讐である。

微かなあたしの"被害者意識"が
心無いお礼を言わせたに違いない。

けれどもう、終ってしまったのだ・・。


「やっぱり独りが性に合うわ。」


そこにある、
何もかもを一掃する言葉にも思えた。

優弥とは縁がなかった・・

それだけの事。




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