マンゴーにはなれそうもない
「・・ぷっ! アハハ・・で、
アンタはその後どうなったの? 」

「あー・・、一応検査にね。んで、
リュウと2人で彼に頭下げて帰って来た。」


幸い左肩を少し打った位で済んだ
あたしは・・翌日の夜。

いつもとは逆に
薄暗い店内のカウンターで妖艶な女と
一緒に会話とバーボンを楽しんでた。

チリチリパーマの黒いロングヘア。
姉の茉莉<マリ>の
体のサイズはほぼあたしと同じ。

なのに
何でこんなセクシーに見えるのか?

ぷるるんとした唇が
その糖度を予感させる大人のオンナ。

レゲエ・バー"ナッティ・トレッド"は
姉が経営してる独特の雰囲気を持つ店。

ここの、気ダルイBGMと常連の
カリビアンの吸う煙草の匂いが苦手で
あたしは滅多に近寄らない。

ゴクたまにだけ仕事帰りに独りで
ジャークチキンを食べに来る。

え? 自分で作れば? って?

ウチは和の料理人の父から引き継いだ
"味のセンス"を皆持っている。

あの父でさえ、この可愛い娘達にも
秘伝の味は伝授したりしない。

「舌で覚えて盗む」

そのオキテはあたしと姉、
弟の間にもちゃんと存在するので
敢えて黙って作って貰うのだ。

シングルグラスにまたワンショット、
姉は何だか嬉しそうに"マイ・テキーラ"を
小さめのグラスにまた注ぎ足している。


「アンタは今、"モテ期"なのよ。
女はネェ、生きてりゃ何回か絶対
そう云う時期が来るんだってば☆」

「そりゃあるにはあったけど・・。」


その時はまだ、免疫もあった訳で。

たわわに実るマンゴーの木の下で
両手を広げて待つ男たちを想像した。

男ってものが
信じられないあたしは

拾われたくなくて、
食べられたくなくて
木にしがみ付くヒネくれた果実。

熟れてるのに「食べて!」と
けして自分から落ちては来ない。

そのクセ甘い香りを放って
人を誘惑する・・

それが
弟が云うところの【悪いマンゴー】・・

勿論、あたしはそれを否定していた。





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