マンゴーにはなれそうもない

まさか、あたしが謝るとは
思ってもみなかったのだろう。

コーヒーにストローを奥まで差し込み、
喉の渇きを少しだけ潤して言葉を続けた。


「元はと云えばあたしが悪いの。
だから・・もう気にしないで。」


直ぐには立ち上がりたくなかったが、
それを云った途端、らしくもなく
涙腺が熱くなるのを感じてしまった。

已む無く席を立とうとしたその時、
優弥がテーブルに着いた手を掴んだ。

しくじった・・。

そんな彼にハッと顔を上げたのに
輪郭さえぼやけて歪んで映ってる。


「・・・・。」


悲痛な顔であたしを見てる
優弥に気付いたのは
涙がホロリと瞳から飛び出してから・・。

なんで泣いたりするのよ・・?

違う、あたしは
自分の浅はかさを反省しながらも
まだ理不尽さを感じてるんだ・・。


アイシハジメテタノ・・?


今更･･なんて往生際の悪い女、
こんなトコロも大嫌いだ・・。


「・・瑠璃、座って。」

「・・ううん、もう行く・・。」

「・・頼む・・座って。」

「・・・・。」


宥める声に
冷静さをなんとか取り戻して
涙を手の平でサッと拭う。

そしてあたしは苦しい照れ笑いで
首を横に振るのだった。


「帰らなきゃ・・。」


これ以上居て何になる?

涙は2粒ほどにしとかないと
彼に恥ずかしい思いをさせてしまうから。


「なら、送る。」


嫌とは言わせないらしい。

怒ったかに強引に手を握り、ダッと
体がバラバラになりそうな勢いで
あたしを店から引き摺り出すと

優弥は自転車のホウキだけを持って
一緒に歩き始めた。

あの時と違うのは・・見上げた
彼の横顔がとても辛そうだったこと・・。

もう彼にとってあたしは
花でもなんでもない。


「・・・?」

少し歩いた、全く人ケのない商店街、
突然､彼は歩をピタリと止める。

あたしの手を握ったまま、呟いた。


「馬鹿みたいだ」


顔は真っ直ぐ前を向き、
まだ何か云おうとして唇が震えてる。


「え・・?」


「俺、ホントに馬鹿みたいだ・・。」

カラン、とホウキが音を立てた。