マンゴーにはなれそうもない
イメチェンした後の
ヘアスタイルってのは意外と
本人が思ってるほど悪くなかったりする。

「似合う」 「春らしくていい」 

周りの反応も上々、若い女性客に
「何処の店で?」って聞かれる事も。


バイト達に至っては「優しく見える」とか。
(それ、マインド・コントロール・・?)

あたしも数日で鏡の中の自分に
慣れたと云うか、もう諦めた。
変えちゃったものはしょうがないし。


「いらっしゃい。」

「甘い匂いに誘われて来たよ・・ぉぉっ。」


昼を過ぎた頃入って来た甲斐は
何気に見たあたしをびく! と振り返り
驚いた顔でもう一度見直してた。

顔をシゲシゲと見ながら座ってる。


「ホント‥ケーキ屋さんみたいだ。」

「一纏めにしようとしたら、
皆にダメダシ食らってしまって。」


カフェエプロンに藍のバンダナ。
確かに見慣れない。

折角のランダム・カールが勿体ない!って。
調理の時はどの道ヒトツに纏めるのに。


「甲斐さんは甘党?」

「この手の匂いに弱いんだよなー。」


前の事が気になっていたのか、
また来てくれるとは。

薦めた通りの
限定パイ・セットをオーダー、

彼はカウンター前のテーブルで
頬杖着いて窓辺のチューリップに
目を細めて待っていた。

失礼な話だが、
カウンターからのこの距離がなぜか
あたしをホッとさせる・・。


「F1へお願い」


折角来て貰ってるのに申し分けない、
バイトの女の子が待機していたので
彼女に運んで貰った。


「お待たせしました。」

「アリガト。」

「ブラックをオススメします。」


あたしは乾いたカップを
直しながらその様子を眺めている。

そのパイを2口食べた後の表情を見れば、
リピーターになるかどうか解るのだ。


「・・・甘ッ。」

「フフ。」


甲斐は"なる"方だろうと思われる。
ちなみにあたしは作ってる時点でダメ。
モラセス(糖蜜)が苦手だった。


「店長・・・コレ。」

「ん・・?」


戻って来たバイトが
小声であたしに何か渡そうとするのだ。


・・メモだ。


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