マンゴーにはなれそうもない
顔を上げるとフォークを口にしたまま
コチラをやや心配そうに見てる彼。


「甲斐さん、あの。ごめんなさい・・
ウチは凄く門限が厳しいので。」


ブーーーーッ³!


そう云った途端、
厨房から一斉に吹き出す音がしてる。

あ、そう云えばバイト3人に
まかない食べさせてたっけ・・。

しかもナンカ、可笑しなトコロに
ゴハン粒でも入ったのか
スゲー、死にそうに苦しがってるし。

まるで"おとっつあん"が3人・・ミタイナ。
思わず背中で冷や汗ダラダラのあたし。

き・・気付いてなきゃイイケド・・。
ってか、他の客は殆ど厨房の方見てるし。

だが嘘も方便・・彼は黙って頷いてる。


「でも・・有難う。」

「じゃ、また昼間にでも。」


ナイターのお誘い・・そして、
携帯の番号。 しかも最後には


「そのヘアスタイル、すげえイイ!!!」

って、ボールペンで書いてあった。


あれ以来、男友達まで
信用できなくなってしまっていた。

今や信用できる男友達はゲイのみである。

こうして益々
あたしは男嫌いになっていくのか・・。
それも悲しい話だが。


「なに、このパイ! ゲロ甘!!」


彼や他の客が帰った後、
店が休みの姉が珍しくウチヘ来店した。


「だから云ったじゃん・・。
集ってくるハエをシュー、シュー!って
追っ払わなきゃいけないぐらい甘いって。」

だからその名も"シュー・フライ・パイ"。


「そのネーミングは気に入ったわ。フフ」

「また・・。」


こんな時の仕草はあたしにも覚えがある。
カウンター席で足ブラブラ、
手のフォークもブラブラ。

本題に入る間を窺ってるのだ。


「マンゴーみたいね。」

「は?」

「知らない? 実になるためにその花は
腐敗臭を出して、ハエをおびき寄せるの。
んで、後はホラ、雄しべと雌しべって奴?」


姉が云うとエロくしか聞こえない。

ロングの煙草を取り出し、斜め上の照明に
目をやりながら火を着けて煙をヒト吐き。
やはり、何かあるのだ・・。


「性教育しに来たワケじゃないんだった。
あのね・・アンタ当分、身を隠してなさい。」



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