マンゴーにはなれそうもない
オーナーの車ではない・・誰?

あたしは硬くした体を
"走るモード"に切り替えようとしてた。
だが、車内が見えた途端肩を下げてる。

「今、終わり?」

「甲斐さん・・。」


窓から屈託ない笑顔を見せる男。
しかし、あたしも
ゆっくりはしてられない。

明日が仕事だったら
車で一夜を明かせばよかったのだが
火曜でも祝日、
急いで泊まる所を探さねば。

そして彼と仲良くしすぎてもいけない。
関わりを持たしてはいけないのだ。

( 特に今は )


「あれ? 誰かと約束?」


ノンキな口調に苛立ちを覚えるも
首を振る事さえ出来ずにいた。


「これから出掛けるんです・・。」

「ああ・・そーなんだ。じゃ、
通り道だ。駅まで乗せてってあげるよ。」

「あ・・いえ、本当に・・!」


車から降りて来てあたしの荷物を
取り上げ始めたではないか。

後のドアを開けて入れると
あたしに"乗って"と掌で促すのだ。

警戒心を知ってて・・後を薦めるのだろう。
しかし乗れば駅に連れて行かれてしまう。


「・・どこ行くつもりだった?」

「・・・!」


開いたドアの前に立ち尽くし
躊躇してるあたしをニヤリと覗き込む。

バレてる・・試したのだ。

嘘でも"男が迎えに来るから"と、
なぜ云えなかったんだろう??

あたしは前髪を掻き揚げながら溜息をつく。


「何でそんなに構うんです・・。」

「好きだから?」

「何も知らないでしょ、あたしの事。」

「これから、もっと知るから。」

「結婚なんて無理ですよ?」

「ウソ・・!」


だからアア云ったのに、
もう忘れてしまったのだろうか?

甲斐はショックを受けた顔で
あたしから少し離れ、何故か
上から下から、右から左からと眺め出す。

「?」

そしてグッと両肩に手を置き、真顔で。


「ダイジョウブ! どこをどう見たって女の子だ。
ソンナ事、全然っ気にしてないから・・!」

「イヤ 戸籍上も女ですから!」


失礼なっっ!
あたしのどこに、ニューハーフの片鱗が?

しかも、気にしてないって! そこは気にしろ!


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