マンゴーにはなれそうもない
「・・・・。」


パトカーに保護される
不良少女な頃を思い出す。
何故か・・逆らえなかった。

結局、車の後ろの席に座らされると
車は繁華街とは真逆へ走って行く。


「家には?」

運転しながら訊ねる彼と
ルームミラー越しに目を合わせた。


「事情があって当分帰れないの。」

「・・・話せない?」

「ええ。」


解って欲しい、貴方の様な人だからこそ
あたしは話せないのだ。

ミラーから目を反らすと
まだ薄明るい窓の外を眺めてる。



___あたしの中、時間が遡っていた。


"想像とちょっと違ったわ"


妻である瑞穂がバイト先の小料理屋に
単身で来店したことがあった。

料理を運んで来た
あたしにそう云ったのだ。

暖簾を潜って来た時の
鋭い眼差しも落ち着き、ただジーっと
横顔を見てポツリと呟いたのだった。

一目で彼の奥さんだと解ってた。

凛とした目鼻立ち、
左の小さな泣き黒子
品のある栗色の長いストレート・ヘア
枝の様に細い体、煙草の吸い方・・。

子供な自分が
恥ずかしくなるぐらい綺麗な人だった。

あたしは彼女が知らないだけで、
実は瑞穂を知っていた。

姉と同じ高校の出だと聞いていたから
ツテで卒アルを見せて貰った事がある。

だけどあたしは気付かないフリをして
普通の客の様に接し、やり過ごした。

その類の女に恨みごとを云う人が、
彼の様な男の妻である筈がないのだ。

"瑞穂を超える女になりそうだ"

コウちゃんは次の日の夜
ベッドの中にあたしを引き摺り込み
裸体を愛おしそうに眺めながら
そう云うと、優しく、激しく抱き始めた。

その言葉と愛撫にうっとりと目を閉じて。

"本当・・?"

"ああ・・"

彼は他にも女がいるとは思えない位
マンションの部屋によくやって来た。

だから、そう云われると嬉しかった・・

沢山の中の、2人の女だけが
彼に愛されてるんだと思えたから。

もしかしたら、
そんな風に喜べたあたしは
生粋の"愛人体質"だったのかもしれない。

あの美しい人にあたしが敵う筈がないのに
お世辞でも嬉しいと思ったのだ・・。



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