マンゴーにはなれそうもない
「この逃走は男絡みの話じゃないの?」
「・・・・。」
あたしは悩んでいた、話をしなければ
この男は騎士道を貫き通しかねないと。
けどこの男の事、引き下がらない気がする。
確かに男絡みだが少し事情が違う。
瑞穂が勝手にやっている事だろう。
どんな用事があるにしろ・・洸汰はもう
あたしと関わる事を望まないだろうから。
人は変わる・・純粋な人間ほど特に。
だが、冷静に考えれば
あの人の自慢の女だった瑞穂が
あたしみたいなちっぽけな存在相手に
今更、何をするとも思えない。
あたしが姉の云う事を聞いたのは
家族に迷惑を掛けたくなかっただけ・・。
特に、弟を傷付けたくなかったから。
「別に・・たいした事じゃないんです。
ちゃんと明後日からお店にも出るし、
2、3日したら家に戻るつもりですから。」
「短い当分だな」
「当分は確かに
云い過ぎでしたね、御免なさい。」
笑って届いた料理を口に運んでいるが
あれが疑心の目であるには違いない。
ないとは思うが彼に何かあったら困る。
できるだけ自然を装って言ってのけた。
「わかった・・。僕も明後日は出勤だ。
水曜の朝、一緒にここを出よう・・ね?」
「手を出さないと約束して貰えます?」
「・・・・・・・解った。」
"ねえ?"と云いた気にお箸持ったまま、
あたしに顔を上げて首を少し傾けてる。
「甲本の事、まだ好きなの?」
「・・別れて直ぐ、愛のない
セックスを楽しむ様な女がお好みなの?」
「いや・・! ・・悪かった。」
そう云って真っ直ぐと甲斐を見れば
彼はポカンとした後、席上で頭を下げた。
「あたしに期待しないで。」
ハッキリ云っとかないと後で後悔する。
彼の場合、これでもいい加減だ。
俗に"失恋後の女は落としやすい"と云う。
そんな期待はしていたのだろう。
世の中の女が皆、
そんなに甘いとは限らないのに。
ハエが見向きもしないような
スパイシーなパイが
ヒトツぐらいあってもいいじゃない。
そんなバカな事をふと思うのだ。