異人乃戀
序§召喚

願う思い


 終わりの無い暗闇の中、私は眠っていた。

 内にあるのは虚無の心とまだ見ぬ救世主の残像。
 いつから夢の中にいるのか分からなくなるほど昔からいる気がする。もしかしたら、生まれてからずっと夢の中かもしれない。

 私は夢の住人なのだろうか?

 それさえも分からないほど感覚が麻痺している。

 夢から醒めたいとは思わない。外にあるのは絶望。希望などないのだ。

 まだ救世主がいない世界に……希望などあるわけがない。

 眠りにつく時まで、まだ見ぬ救世主を待ち侘びていた気がする。今ではその記憶さえ無くなってしまいそう。

 しかし、いくら待っても救世主はやって来なかった。
 思えば、国はまだ大丈夫だったのかもしれない。それに気付かなかった私はどんなに愚かなのだろう?

 無理もないのかもしれない。私には感情というものがなかった。

 花を見たって美しいとは思わない。どんなに下臣に陰で何か言われようと、何とも思わなかった。
 人の美しさにも気付かない。思いやりの感情などあるはずもない。勿論、恋心などというものの存在など私は知らないのだ。

 でもなぜだろう?救世主を思う度に、胸が締め付けられるような思いにかられるのは。

 救世主は私に何をもたらしてくれるのだろう?

 ただ、国を自由へと導くだけでなく、私自身をもどこか私の知らない世界へと導いてくれる気がするのは私の思い上がりだろうか。

 私は深い、絶望という名の淀みの中で、もがきもせず救世主を待ち侘びているだけでいいのだろうか?


 しかし、今の私にはそれしかできない……ーー。


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