異人乃戀
「一つは、私が神だから」
神族が裏倭を治めることなど無い為、湖阿と夜杜の間に子ができようと支配をすることは無い。それに、神族もある意味裏倭を支配しているのだ。
たとえ王であろうと神には敵わない。直接何かをするわけではないが、力を持っている。
夜杜は湖阿を見ると、微笑んだ。笑顔を向けられた湖阿は、夜杜の視線に気付かないふりをして目をそらした。
「もう一つは、私が君を気に入ったから」
反射的に顔を上げた後、訳が分からないという表情の後、湖阿は心底嫌そうな顔をした。
「傷つくなぁ」
傷付いた演技をしている夜杜に湖阿は少し腹が立ったのだが、何も言わなかった。否、言えなかった。
夜杜は立ち上がると、湖阿を抱き上げたのだ。あまりにも突然のことに、湖阿が何も言えずにいると、夜杜は笑い出した。
「叫び声一つでもしてほしかったよ」
妙な感覚に支配され、茫然としていた湖阿は我にかえると暴れだした。
「放してよ!」
「さ、行こうか」
暴れる湖阿を制止する事なく歩く夜杜に、意外と力があるんだ、と湖阿は少し関心した。
「あっ」
そう言って湖阿を下ろすと、湖阿の顔を覗き込んだ。
「湖阿、君は青龍の眠っている王を目覚めさせないといけない」
口づけによって。湖阿はもっと他の方法があるんじゃないかと溜息をついたが、それしか方法は無いと湖阿は信じてしまっていた。
「誰ともしたことないでしょ?」
意地悪な夜杜の笑みに、湖阿は顔を紅潮させた。図星、なのだろう。
「か、関係無いじゃない!」
「じゃあ……練習しなきゃね」
何を言っているのだろう?この変人は。と、考えながら夜杜を見ると、やたらと近くに顔があった。
金色の瞳と目が合った湖阿は何故動けないのかと、疑問にも感じないくらいに瞳に吸い込まれていた。
湖阿が我にかえったのは、唇に妙な感覚を感じた時だった。何か温かいものが触れている。そう感じた湖阿は、夜杜の顔が離れると同時に消えた唇の温もりに、初めは何だか分からなかったが、すぐに顔を真っ赤にした。
「な……何するのよ!」
湖阿は唇を袖で強く擦った。その動作を不快に感じたのか、夜杜は近付くと素早く湖阿を押し倒した。