異人乃戀
「ちょっ……」
抵抗する間もなく押し倒された湖阿は、夜杜が龍の印しか出ないことを確かめるために押し倒したと自分なりに解釈した。
セーラー服のスカーフが外され、首筋にあたる夜杜の唇の感触に、湖阿は少しの恐怖を感じ、逃れようとしたが、力が強く、びくともしない。湖阿が逃れようとしたことで、衣服がさらに乱れる。
表情が見えないため、これが冗談なのかどうなのか確認できない。
「ちょっ……離せ!」
湖阿は渾身の力を込めて夜杜を押し退けると、夜杜の頬を殴ってすぐに離れた。
「ふざけんな!」
着衣の乱れを直しながら夜杜を睨むと、夜杜は顔を押さえて笑い出した。
何がそんなに可笑しいのか分からない湖阿は、呆気にとられ、力が抜けて座り込んだ。
「湖阿は今までの救世主と全然違う」
尚も笑い続ける夜杜に、湖阿は足にどうにか力を入れて立ち上がった。
「神と言う単語を聞くだけで誰だってどんなことをしても反発をしない」
神を信じていないとしても、少しは恐れる。神が気に入らないと思えば、罰があたると。
「今までは泣き出したり、逆に誘ってきたりが多かったからね」
今まで何回も女を押し倒してきたという事をあっさり言う夜杜に、湖阿は思いっきり睨んだ。
「裏倭に行けばこんなことしょっちゅうだから、もしこうなった時にどうするかで救世主として裏倭に送っていいのか決めているんだ」
押し倒されるのがしょっちゅうある世界とはどんな世界なのかいまいち分からない。
どんな反応をすれば合格なのか分からないが、もし不合格ならば帰れるのだろうかとふと思った。
「駄目だと判断したら、その時は……」
黒い笑みを浮かべる夜杜に、さっきの考えは捨ててしまった。
もし救世主に適していないと分かったら、裏倭に来る前の記憶を裏倭で幼少から過ごして来た記憶とすり替え、裏倭で暮らすことになるのだ。
「それか、私の妻になるかの二択」
「あたしだったら妻になるのは絶対嫌」
湖阿が即答すると、夜杜は苦笑しながら湖阿に近づき、抱き上げた。
「さて、今度こそ行こうか」
「離して!」
「離したら連れていけない」
湖阿は大人しくなると、俯いた。