異人乃戀
眠る龍
「どういうことだ!」
仕切られた一角に布団だけが敷かれた広い部屋の中にいた数人の内の一人の体格のいい男が声をあげた。
青い髪のその男は今だ眠り続けている王に忠誠を誓った兵士だ。
「落ち着きなさい、鷹宗(たかむね)。今頃、夜杜様に引き止められているんだろう」
朱雀族の召喚師の男の中で一番若い、灰色の髪の男が宥めるように言った。
「陸丞(りくじょう)……。にしても、遅すぎるだろ!」
鷹宗は荒々しくあぐらをかいて座ると、王の方に目を向けた。
布団で深く眠っている王は、微かな胸の上下でかろうじてまだ生きていると分かるが、それがなければまるで死んだように眠っている。
「兄上、何かが近付いています」
陸丞の妹の咲蘭は呟くと、召喚の儀を行った時の杖を高くあげた。
すると、急に辺りが光に包まれ、光の中に人が現れた。
その場にいた人々は、光の中の人を確認する前に頭を垂れて肩膝をついた。
光の中から現れた夜杜は片手を袖に入れ、片手をひらひらと振った。
「元気かい?」
夜杜の場にそぐわない言葉に、怒りをおぼえた者もいるが、神相手に怒るわけにもいかず、黙っていた。
鷹宗以外は。
「おい!何だ、その緊張感のない声は!」
「今日も元気だね。龍の犬」
その言葉に、鷹宗はは殴り掛かろうとしたが、陸丞が必死に止めた。
「犬じゃねぇ!」
「じゃあ……仔犬?って……君に仔犬って言うのは仔犬に失礼だね」
面白おかしく言う夜杜に、鷹宗は更に青筋を立て陸丞を振り切った。
「てめぇ……神族だからってなぁ!」
「鷹宗」
鷹宗は肩を叩かれ、振り払いながら振り返ると笑顔の陸丞と目が合った。
「謝れとは言わない。けど、そこら辺にしておかないと……鷹宗の可愛い可愛い趣味を皆に言ってしまおうと思うんだけど?」
陸丞のやんわりとした脅しに舌打ちをすると、夜杜に背を向けて荒々しく座った。
「夜杜様もあまり鷹宗をからかわないようにして下さい……」
いつの間にか咲蘭と茶を飲んでいた夜杜は、努力するよ。と軽く返事をした。
「咲蘭」
のんびりと茶を飲んでいた咲蘭は、急ぐ様子も無く全て飲み終えてから立ち上がると、本題を切り出した。
「夜杜様、救世主様は来ておられないのですか?」
「キャー!」
咲蘭が問うたすぐ後に、何か重たい物が落ちる音と叫び声が王のいる仕切の中から聞こえた。
皆が急いで行こうとすると、夜杜がそれを止めた。
「今行くのは不粋だ」
少し黒い笑みを浮かべた夜杜は、可笑しそうに笑い始めた。