異人乃戀
「大丈夫ですか?」
その様子を見兼ねた陸丞が湖阿の肩を叩くと、湖阿は慌て出した。
「あ、ごめんなさい!つい……」
「いえ、気にしないで下さい」
湖阿が恥ずかしそうに笑うと、少女は両膝を着いて頭を下げる丁寧な礼をした。
「ようこそいらしてくださいました救世主様。わたくしは玄武族族長玄徳咲蓮(げんとくされん)の娘、咲蘭(さらん)と申します」
気付くと、場にいた全員が頭を下げていた。湖阿は妙に居心地が悪くなり、頭を掻いた。
「私は咲蘭の兄の玄徳陸丞。そして、先程失礼をおかけしてしまったのが蒼瀧鷹宗(あおたきたかむね)です」
咲蘭同様、整った顔をしている陸丞に湖阿は自分が可哀相になりため息をついた。
どうしてこの世界の人々はこんなに綺麗な顔なのだろう?例外もいるかもしれないが。
「王!」
鷹宗の声に一同は急いで仕切の中に向かった。勿論、湖阿も。
鷹宗の隣には、さっきまで眠っていたはずの王が上半身を起こしていた。
「……迷惑をかけた」
無表情で言う王に皆は安堵した。元々表情を表に出さない王なのだ。もし、少しでも笑って言ったらそれは王ではないというくらいに。
湖阿は自分の意志ではないとはいえ、さっきの事が頭の中をちらついて頭をずっと下げていた。
誰も見ていないのだから、気にする事も無い、と言い聞かせてみても、恥ずかしい。
顔を上げてみると、いつの間にか仕切が取り払われており、正座し皆が地に額をつけ頭を下げていた。
「王、救世主様が来て下さいました」
咲蘭の言葉に王は湖阿を見た。湖阿はどうしたらいいのか分からず、とり
あえず王を見た。
鼻筋がすっと通り、整った顔立ちに、湖阿は見ただけで顔が火照るのを感じた。
黒い髪は起きたばかりだというのに、さほど乱れてはいない。深い青の目はどこか威厳があり、そして悲しみが宿っている。
「私は……青龍族の長采龍志瑯(さいりゅうしろう)だ」
志瑯の口から出た青龍族の長という言葉に皆が顔を曇らせた。いつもなら、裏倭の王と言うところなのだ。白虎族に裏倭を支配されたと分かってはいたのだが、王の言葉に焦りを覚えた。