異人乃戀
「名は?」
湖阿は正座をすると、少し頭を下げた。皆のように地に頭をつけようか迷ったが、どうしてもする気になれなかった。
それは、湖阿が裏倭の民ではないからだろう。
「如月湖阿です」
「真に救世主なんだな?」
その問いに、湖阿は疑われた怒りではなく妙に納得してしまった。
もし、自分の世界に明らかに毛色の違う人が現れたら誰だって真っ先に疑うだろう。
「夜杜様がお連れ下さいましたから間違いありません」
咲蘭の言葉に納得したのかしていないのか、志瑯は何か考えはじめた。
「夜杜と一緒には来てないよな。王の所に落ちていったんだろ」
鷹宗が皮肉っぽく言うと、志瑯は湖阿を見た。
「どのように私を起こした?」
湖阿は黙ると目を反らした。何と言えばいいのだろうか?湖阿は顔が紅潮すると言うより、血の気がひくのを感じた。
「それは……」
その時、湖阿の視界の端に青い何かがちらついた。
顔を上げると、志瑯の周りを青い龍が舞うように回っている。志瑯は勿論、他の皆も気付いていないらしい。
青龍は志瑯から離れると、湖阿の頬に優しく顔を擦り寄せて回り始めた。
湖阿が触れようとすると、光を発し湖阿の下腹部に入り込むように消えた。
暖かく優しい光は心地よく、微かに薫る花の匂いが湖阿をさらに心地よくさせた。
青龍の意味を考える暇も無く、湖阿は深い眠りに堕ちていったーー。