異人乃戀

 もう一つの疑問の理由も分からない。なぜ、救世主なのに追い掛けられ、敵対視されるのか。

 他の族ならまだわかる。青龍族を助ける立場の救世主を嫌うのは、青龍族の長、志瑯が王になるのに反対していると言える。
 しかし、鷹宗は王に誠意をみせていた。真っすぐな目で志瑯をみていた。

 湖阿は何となくわかった気がした。

 鷹宗にとって頭を下げるべき人は志瑯しかいないと考えている。自身が信じ、ついて行こうと決めたのは志瑯のみ。
 鷹宗はひねくれたようで、真っすぐな性格をしているのだ、と。
 かと言って、あんな対応されたことを許す気にはなれない。許すというより、今後も言われたら言い返すというのを止めるつもりはない。

 それとこれとは別物だ。

「ここ……どこ?」

 必死に逃げ、鷹宗をまいたのはいいが、今自分が何処にいるのか分からなくなってしまった。
 この屋敷が何なのかすら分からない。
 湖阿は息を整える為に深呼吸をすると、辺りを見回した。
 時代劇で見たことが有るというのが湖阿の印象だった。

「寝殿造り?あれ?書院造りだっけ?」

 高欄に手をかけると、次は廊下に囲まれた中央にある庭園に見とれた。湖阿にとってはなんとも不思議な光景だった。

 桜の花が満開かと思えば、小さな池には蓮の花が。そして、鬼灯(ほおずき)と水仙が岩の下に控えめに立っていた。
 咲く時期が異なった花それぞれが自らの美しさを誇るように咲いている姿は、湖阿の胸をいたませた。

 まるでこの世界のようだ、と。

 裏倭をあまりよくは知らないが、何故かそう思えた。

「違うモノが共存するのは無理……」
「その通り」

 湖阿が慌てて横を向くと、志瑯が無表情で立っていた。志瑯は何も言わず湖阿の横に立つと、桜を見上げた。
 湖阿は暫くの間志瑯の横顔を見つめていたが、視線をずらし、桜をみた。

「この桜は白虎族だ」

 唐突な言葉に、湖阿は何も言えなかった。何と言えば良いのか分からない。

「ここの花には術がかけられている。ずっと咲き続けるようにと。しかし、いくら術をかけても桜だけは咲かなかった」

 単調な口調だが、そこに冷たさは感じない。

「しかし、私が眠らされた直後に桜は咲き乱れた。まるで白虎族のように」

 この屋敷の皆、玄武族は不気味に思った。この現象を不吉に思った玄武族の長、咲蓮は城に使いとして兵をやり、そのおかげで今、志瑯を含め青龍族の兵が生きている。



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