異人乃戀
訪問者
笑おうとした湖阿だが、笑うよりも哀れみの目を向けた方が鷹宗にとって最もダメージを与えると知ってか知らずか、鷹宗に哀れみの目を向けた。正確には、鷹宗の頭に向けて。
「わしの頭は無事だから案外、大丈夫かもな!」
鷹成の豪快な笑い声は鷹宗の中で何倍にも増して響いているだろう。
今なら鷹宗にたやすく勝てると思った湖阿だが、馬鹿らしくなり、あえて何も言わない。
ずっと湖阿に盾にされていた志瑯は、湖阿を一瞥すると歩きだした。
「鷹宗、話がある」
そう言うと、部屋を出ていく。鷹宗は大分ダメージをうけたようだが、すぐに立ち上がり志瑯を追い掛けて行った。
「……犬みたい」
湖阿が呟くと、鷹成がまた笑い出した。それにつられるようにして、その場にいた皆が笑い出した。
「夜杜様が鷹宗を犬と言っていたのもあながち間違いじゃないですね」
「確かにそうですね、兄様」
苦笑気味に言う陸丞に、咲蘭が微笑んで言った。
「主に忠実な番犬だな」
「我が息子は狂犬にはならんか」
志瑯のためならば、鷹宗はどんなことだってやる。湖阿の警護は、志瑯に頼まれてやったのだ。
個人個人の意見を尊重し、自分が出来ないと感じた事は拒否する事が出来る自由を青龍族は理想とし、実行してきた。
自由のおかげで国が治まり、自由が仇となって白虎族に国をとられたのだ。
鷹宗は、自由が尊重されるこの国で王から言われた事を全て実行してきた。
親友を捕縛しろと言われた時でさえ、迷わず頷いたのだ。
「もし、わしを殺せと王に言われたら……鷹宗は実行するだろうな」
鷹成が苦笑気味に言った。
「とんでもない番犬を飼っているのね」
湖阿がため息をつくと、湖阿の頭上が光った。光の方を目を細めて見上げると、浮かぶような妙な感覚が湖阿を包む。
自分が実際に浮かんでいる事に気付いた時には、湖阿は誰かに抱き抱えられていた。
「これが青龍の救世主か」
聞き覚えの無い声。
そして、その場にいる四人は厳しい目つきで武器を構えている。
「どうやってここに入った!」
咲蓮が威圧感のある少し低めの声で問うと、訪問者は少し笑った。
「あのくらいの結界なら子供だって侵入出来る」
嘲笑うかのような声。しかし、その声と態度とは裏腹に湖阿を抱くその手は震えていた。
呆然としたままの湖阿だったが、我にかえると顔を後ろに向けた。