異人乃戀

 湖阿の身体の中で何かが忙しくうごめいていた。これを外に出したらいけないと、抵抗するが、抑え切れない。

「咲蘭、部屋へ連れて……」

 咲蘭が湖阿を立たせようとすると、湖阿が勢いよく顔を上げた。

「離れて!」

 そう叫んだ数秒後ーー湖阿の身体から、ちょうど腿のあたりから風が吹き出た。
 珮護が湖阿の側にいた咲蘭を引くと、炎を纏った風が湖阿の周りを回りはじめた。

 あまりにも不思議で不可解な事に、その場にいた全員が目を離せなかった。

 まるで生きているかのような炎と風。

 しばらくすると、風は湖阿の身体に入るように消えた。湖阿は既に意識が無く、崩れるようにして倒れた。

 志瑯が湖阿の上半身を起こすと、咲蘭が何かの異変に気付いた。

「……鷹宗さん、上着を貸してください」

 鷹宗が上着を咲蘭に渡すと、湖阿の身体の上にかけた。そして、右腿だけ出し、スカートも少しだけめくった。

「これを……」

 男たちは場所が場所だけに見るのを躊躇ったのか、咲蓮だけがそこを見た。

「これは……!

 顔を背けていた志瑯だったが、咲蓮の驚き方が尋常ではないのに気付き、湖阿の腿を見た。 そこにあったのは、青龍、白虎、朱雀、玄武の印だった。

「どういうことだ……」
 志瑯のいつもとは違った声色に、鷹宗親子と陸丞も湖阿を見た。
 誰もが予測しなかった事態に皆、ただ動揺するしかなかった。
 四つ全部の印が現れるなど、前代未聞だ。もっとも、今までにあったとしても公にはならず一部の人にのみ知られ、後世には何か理由があってか、語り継がなかったのだろうが。

「封印が弱かったかなぁ」

 気の抜けるような声が天から降ってきた。

「夜杜様、どういう事ですか?」

 夜杜が地に降りると、湖阿の傍ら立っていた志瑯が鷹宗の上着をかけ直した。
 志瑯の行動に、夜杜は残念そうな顔をして志瑯を見た。

「ざーんねん」
「夜杜殿!」

 軽い調子の夜杜に咲蓮が一喝すると、困ったような顔をした。

「このままの意味でとってくれればいいよ」
「全ての族の救世主になりうるということか」

 志瑯が呟くように言うと、夜杜はその通りというように笑った。

「一応、出ないように封印するために力を入れた首飾りを渡したんだけど……失敗だったみたいだ」

 湖阿の首にある首飾りが微かに煌めいた。

「夜杜様でも失敗するんだな!」

 場の雰囲気を少しでも和らげるように、鷹成が豪快に笑いながら言った。



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