異人乃戀
「何故朱雀の次期長が朱雀族を裏切ってまで?朱雀族にもう戻れないかもしれないのにそこまで決意したのは……」
咲蓮が問うと、珮護は苦笑いをした。
「君にとっては今の決断の方が辛いだろう、違うか?」
白虎族に従うという族長の決まりを破るということは裏切りと言える。
「……そうだなぁ。今までオレは親父に逆らわずに生きてきたし、逆らおうとも思わなかった。それに、いつでも親父が正しいと思った」
珮護にとって父は、父としても朱雀族族長としても慕い、最も尊敬する人だった。
「でも、親父は変わった。というより……変わったふりをしているんだ」
「変わったふり、ですか?」
咲蘭の問いに、珮護は苦しそうに頷いた。
「本当は親父だって白虎には従いたく無かったんだ!でも……親父ははっきりと白虎につくと言った」
「なぜ、つきたくないのについた?」
今までただじっと聞いていた志瑯が言うと、珮護は首を振った。その姿はあまりにも悲痛で、誰も言葉が出ない。
「オレは……親父に言われてここへ来た。お前は青龍につけって」
族長である自分は無理だからと息子に行かせた父親として、族長として……。
朱雀の長は欲望に支配されてはいない。しかし、何か理由があったとしても朱雀族は反逆者の仲間。何か理由があると言われても、同情して敵対しないわけにはいかない。
敵なのだから。
「朱雀の長は滅びる覚悟なんだな」
朱雀が滅びるのではなく、朱雀の長自身が滅びる覚悟が出来ているのだ。
白虎族の天下が続いたとしても、青龍が再度王位についたとしても……滅びは免れない。そう予感している。
自分が滅びても青龍についていれば、朱雀族が存続できる可能性が大きいと次期長である珮護を青龍の所へ行かせたのだ。
そして、珮護に自身さえもが間違ったと思った方向へ行ってほしく無かったのだろう。
「朱雀の長なら言いそうだな。あいつは優しい」
咲蓮はそういうと微笑んだ。
「確かに、悪い噂は聞かなかった」
「鷹成……お前も会ったことあるだろう?」
「……よし、わしは若いもんたちと訓練してくるぞ」
鷹成はごまかすように豪快に笑うと、部屋から出ていった。
どうやら忘れていたらしい。会ったのは昔の事だったのだろう。
「優しすぎても、そこに付け込まれるだけ……」
咲蘭の呟きに珮護は全く。と苦笑した。
優し過ぎるのだ。咲蓮とは違った優しさ。咲蓮は相手に非があると分かれば、それ相応の対応をする。しかし、朱雀の長は非があると分かっても、自分一人で抱え込み許してしまう。
優しいとは言えない優しさ。そんな性格を知っている白虎族が
「オレは青龍につく。……親父を救ってくれとは言わない」
父親が決めたことに口だしはできない。それに、長が考えを変えることで後に従っていた者達は動揺し、反感を持ってそれこそ朱雀が滅びてしまうかもしれない。
朱雀族はそれほど傾いているのだ。
「どうします?志瑯様」
志瑯は珮護の顔をじっと見ると、口を開いた。
「嫡子としての覚悟はしつかりある。……私に力を貸してくれ」
それだけ言うと、部屋を出て行った。その後ろ姿を見送りながら珮護は深く頭を下げた。