異人乃戀
やることもなく部屋で歩き回ったり寝たりを繰り返していた湖阿は、何かを思い付いたのか起き上がると、部屋を出た。
元々落ち着いていられない性格の湖阿は、じっとしているのが苦手なのだ。
迷うと嫌だからと部屋から一歩も出なかった湖阿だが、部屋へ帰れる範囲で行動すればいいと思い、部屋を出た。
不思議なことに湖阿が歩いても人に出会わない。大勢の人が住んでいるというのを聞いたはずなのにおかしい。そう思った湖阿は、先へ先へとどこを通ったかを確認せずに歩いく。
こんなに広い屋敷は今まで見たことがないと湖阿は鼻唄混じりに上機嫌で歩いていた。
「ここどこ?」
湖阿が迷ったということを自覚したのは十何個めかの角を曲がった時だった。
誰かに聞こうと思ったが、誰もいないのだから聞けるはずもない。
立ち止まっていても誰かが来てくれるわけじゃないと自分に喝をいれると、自分が来た方に向かって歩き出した。
どこのかどをどういう風に曲がったかを覚えていないため、勘に頼るしかない。
しかし、湖阿は歩くにつれ、さらに迷った気がしてきて泣きそうになっていた。
「どうなさったの?」
急に聞こえた人の声に湖阿は素早く振り返った。
すると、そこにいたのは綺麗な顔と髪をした女性だった。
やっぱりこの世界には綺麗な人しかいないのか。と、ため息をつきそうになった湖阿だが、さすがに人の顔を見てため息をつくのは失礼だと我慢した。
「あなた……もしかして救世主様?」
「あ、えっと……」
湖阿がまごついていると、女性は湖阿に向かって優しく微笑み、近付いて来た。
「あなたみたいな方がこんなところに来てはいけません。こちらへ」
女性に案内されるままについていくと、知った風景の場所に着いた。
「ここからの道は分かりますか?」
「はい!ありがとうございました。えっとー……名前は?」
「凪です。では、私はこれで」
丁寧に頭を下げて去っていく凪に再度お礼を言うと、自分の部屋まで歩き始めた。
廊下にはさっきとは違い、人が世話しなく歩いている。
戻れたのが嬉しかった湖阿は彼女が誰なのか疑問に思わなかったが、冷静になってくるにつれて彼女が何者なのか気になりだしてきた。
綺麗な着物を着ていたのだから身分が高い人なのだろう。