異人乃戀
王の役目
「志瑯って見た目通り硬派なのね」
「普通の人なら褒めるべきなのかもしれません。でも、子を作るのは王としての役目なんです」
王となるために生まれ、育てられ、王となったのだからその覚悟は出来ていたはずだ。
しかし、一人だけのせいではないにしろ、志瑯はその役目放棄した。
「……なんか親近感湧くわね」
湖阿は同じような立場に立っている志瑯に妙な親近感を感じた。
同じような立場で違う世界の湖阿にしたら、拒否して当然だと思う。凪が拒否したとしてもだ。
「いいじゃない。奥さんを見付けてその人が子供を産めばいいんでしょ?」
そんな簡単なことではないのだが、湖阿が言うことももっともだ。側女がいなかった王だっていなかったわけではない。
ただ、もし何かあったらどうとしようもないのだ。直系の血が途絶えれば争いが起こる。
「本妻が現れなかったら……」
「大丈夫よ。最悪の場合なんて考える必要ないし。その時になったら何か考えればいいの」
湖阿の言葉に咲蘭は思わず頷いてしまった。一国の事だからと重く考えすぎていたのだ。
それに、志瑯にも何かしらの考えがあるのかもしれない。今までの心配は志瑯を信じていなかったと言える。
「救世主様、ありがとうございました」
咲蘭は丁寧に頭を下げると、行きましょう。と歩き出した。
「っていうか……来たばっかりで何も知らない私が口だしすることじゃないか」
湖阿は事情も何もしらないのに胸を張って言った自分が今更恥ずかしくなった。
咲蘭は止まると横に首を振った。
「いいえ。私達は知っているからこそ考えすぎていたんです。救世主様の言うことは私たちでは考えられなかった。志瑯様も救われます」
「別にそんなたいしたこと……」
湖阿は自分の思ったことをただ言っただけだと否定したが、咲蘭は再度横に首を振る。
「救世主様はやっぱり不思議なお方ですね」
笑顔で言われ、湖阿は複雑な気持ちになった。不思議とはどういうことだろうかと。
「それより、救世主様ってやめてくれない?」
湖阿が話を話を切り替えるために咲蘭に言うと、咲蘭は首を傾げた。
「なんか……ね。私に名前だってあるし、名前で呼んでって言ったでしょ」
救世主と呼ばれるとどうしても気が重くなる。咲蘭は不思議そうな顔をしながら湖阿を見た。
「では……湖阿様と呼びますね」
「様もいらないけど……それでいいわ」
様をつけるなと言ってもつけるのは止めないだろう。
咲蘭は笑顔で微かに頷くと歩き出した。