異人乃戀
この状況をどうすればいいのか焦りながら湖阿はなぜこの状況になったのか
考えていた。
志瑯はなぜ抱き締めたのだろう?それがまず分からない。そして、咲蘭には咲蓮たちが呼んでいたと言われたはずだ。なのに、居たのは志瑯一人だけ。咲蘭も何も言わずに行ってしまった。
考えた末に行き着いたのは、はめられたということ。志瑯はこれ以上、何もする気は無いだろうと考えるのだが、分からない。もしかしたらということもある。
今のこの国の状況は湖阿が思っている以上に深刻なのだ。いい人だろうと、国が関われば一人の気持ちなどを考える余裕も無いし、切り捨てなければならない。救世主のように尊い存在であったとしても。
しかし、湖阿は志瑯が無理矢理犯すようなことをしないという自信があった。根拠の無い自信だが、湖阿はすっかり安心していた。
「……志瑯」
湖阿が少し体を動かすと、志瑯は腕の力を強め、さらに強く抱き締めた。
「ちょ……志瑯?苦し……」
志瑯の背中を軽く叩きながら言ったが、力は弱まらない。むしろ、強くなるばかりだ。骨が軋む音が聞こえそうなくらいに抱き締められ、恥ずかしいという場合ではなくなっていた。このままでは窒息死してしまう。
「志瑯、大丈夫?」
苦しいのを我慢しながら、長い時間優しく名前を呼んでいると、段々と腕の力が緩くなっていった。
「……すまない」
落ち着いたのか志瑯はそう言って、体を離した。相変わらずの無表情で。
「あ、うん」
どう声をかけたらいいのか分からず、湖阿はただ相槌を打つことしかできない。
二人の間に流れる気まずい沈黙をどうにかしたいと思うのだが、自分が思っていた以上に気が動転していた湖阿はどうにも出来なかった。
「……私の母は幼い頃に死んだ」
静かに語りだした志瑯の顔は少し悲しそうに見えた。
「病気とかで……?」
「いや、白虎族に殺された」
思いもよらなかった言葉に、湖阿は目を見開いた。