異人乃戀
湖阿は鷹宗と入れ違いに部屋に入ってきた咲蘭に連れられ、元いた部屋に戻った。
何か重要な話し合いが行われるのだろう。
「部屋から出るときは誰かに声を掛けてくださいね。また迷うと大変ですから」
そう言うと、咲蘭は部屋を出て行った。玄武の長の娘なのだから咲蘭も話し合いに参加をするのだ。
これからどうするのか、白虎族から国を守るためにやるべきこと。そして、湖阿についても話し合うのだろう。湖阿の存在をこれからどう役立て、有効に使うのか。
救世主だからといって何か不思議な力が使える訳ではない。よく吟味して救世主がどうするべきなのかを考え、実行しなければ、民を惹きつけることは出来ない。それどころか、離れるだろう。
湖阿についての話し合いもあるのだから本人が居ても良さそうなものだが、この国についてよく知らない湖阿にとっては全く分からないことばかりで話し合いについてはこれないだろう。
湖阿は座るとため息をついた。
「私に何が出来るんだろ……?」
何が出来るのかさっぱり見当がつかない。救世主としてこの国のために出来ることなどあるのだろうか。
こんなに役立たずな救世主でいいのだろうかということを考えてしまう。
「……私の意志で来たわけじゃないのにな」
勝手に連れてこられただけ。湖阿はため息をつくと後ろに倒れた。
「おーい湖阿。入るよー」
珮護の声に湖阿は急いで起き上がった。そして、両頬を強めに叩いた。
「何やってんの?」
入ってきた珮護は、強く叩きすぎて少しヒリヒリする頬をさすっている湖阿を見ると、笑った。
「何でも無い。それより、珮護こそどうしたのよ。その本」
大量の本を抱きかかえている珮護は湖阿の前にその本を置くと並べはじめた。並べている珮護の横で湖阿は少し本を開いて中身を確認したが、字が達筆すぎて読むのは大変そうだと思うだけで何が書いてあるのかは分からない。
「この本なに?」
並べ終わった珮護は一冊の本の表紙を開いた。
「……えーと、歴……史?」
「そ、歴史。何かと複雑だからさ、この世界は」
湖阿は思わず何回も頷いてしまった。
この国で過ごすには歴史を知らないと住みにくい。そして、今は特に重要だ。
「救世主についても書いてあるからさ、頑張れ」
本を一冊開いてにらめっこしていた湖阿だが、閉じると珮護を見て首を振った。
「無理。解読不可能」
読めないことはないが、一ページ読むのに一、二時間はかかる。
古文の原文よりは読めるような文字だが、普通の文字の何倍も読みにくい。