異人乃戀
一ページ読むのに一時間もかけたら、一冊読み切るのに何週間かかるか分からない。
それに、理解出来ない言葉があるかもしれないのだ。
「……いけるって!」
「無理。珮護、教えてよ」
湖阿が言うと、珮護は困った顔をした。
「俺が?」
「そう。……でも、珮護も忙しそうよね」
珮護は青龍族側についた朱雀族の民をまとめる役目に奔走している。
今も忙しいはずなのに合間を縫って湖阿に届けてくれたのだ。そんな珮護に頼むわけにはいかない。
「あれ?そういえば、珮護は話し合いに参加しないの?」
湖阿が問うと、珮護は曖昧に笑った。
「俺はまだ青龍についたばっかりだから」
本当に味方か敵か真実が分からないうちは重要な話し合いに参加させるわけにはいかないのだ。
もし敵だった場合、取り返しのつかないことになる可能性だってある。
今は慎重にならなければいけないときなのだ。
湖阿は自分の浅はかさを後悔した。少し考えれば分かることだ。
「そっか。……私に刃物突き付けるようなやつだしね」
湖阿は意地悪そうな表情をすると、立ち上がって珮護に近付いた。
「それは悪かったって!」
湖阿の言葉で、珮護は暗い表情から少し明るい表情になった。必死に弁解しようとしてしている。「嘘よ。私、気付いたんだけど……珮護っておもしろいわよね。何て言うか……からかいがいがあるっていうか」
「なんか酷くないか?つーか、酷!」
湖阿は珮護が可愛く見えてきていた。癖のある性格の人の中で唯一と言える、裏が無く、素直な性格をしている珮護程湖阿を癒す人は居ない。
「頭撫でていい?」
湖阿に暖かい目を向けられ、珮護は慌てて部屋を出て行った。
「俺、十九なんだからな!」
子どものような捨て台詞に、湖阿は暖かい気持ちになったが、珮護の年齢には驚いた。
真実を確かめるために珮護を呼び止めようとしたが、すでに珮護は居なくなっていた。
湖阿はずっと、珮護は同じか又は、一つ年下だと思っていたのだ。童顔で顔立ちが少し幼く、可愛い顔をしているせいだろう。
「……精神年齢幼そうだからいいか」
湖阿はそう考え直すと本を一冊持って立ち上がった。
ここに来てまだあまり日が経ってなく、話したことがある人は地位が高い人で忙しそうな人ばかりだ。勉強に付き合ってもらおうと思っても無理だろう。
湖阿は一言でもいいから話したことがある人を記憶から探した。
「凪さん!」
志瑯の側女の凪のことを湖阿は嫌いではなかった。むしろ、好ましく思っている。
なぜそう思うのかか分からないが、もう一度会いたいと思っていたのだ。
湖阿は思い立ったら即行動と、部屋を出た。