異人乃戀
 湖阿が四つ目の角を曲がると、前方から来た誰かとぶつかった。
 角を曲がるからと速度を落としていたとはいえ、走っていたためぶつかった拍子に衝撃で後ろに倒れた。

 湖阿が見上げると、居たのは鷹宗だ。

「何やってんだ?……誰か侵入してきたんだ。邪魔だからてめぇは早くどっか行け」

 湖阿は会ったのが仲の悪い鷹宗だったとはいえ、安堵して思わず涙が出そうになった。辛うじて涙をこらえられたのは相手が天敵の鷹宗だからと、嫌みな言葉のおかげだ。

「……うるさい」

 涙はこらえられたが、やっぱり力は入らない。湖阿は座り込んだまま下を向くと、大きく息をはいた。

「……どうした」

 普段の湖阿とは違う反応におかしいと気付いたのか、鷹宗は言いにくそうに言った。

「そうよ!咲蘭が……咲蘭が虎猛遊真と……」

 鷹宗は眉間に皺を寄せ、しゃがむと湖阿の肩を掴んだ。

「虎猛がどうした!」
「だから、咲蘭とそいつがあっちにいるの!」

 鷹宗は湖阿の指さした方を見ると、勢いよく立ち上がり走ろうとしたが、振り向いて湖阿を見た。

「……おい、立て」
「は?早く咲蘭の所に行きなさいよ!」

 湖阿が急かすように言ったが、鷹宗は湖阿に近付くと湖阿の腕を引き立ち上がらせた。

 あまりにも予想外な鷹宗の行動に、湖阿はぽかんとした表情で鷹宗を見た。

「……何よりも救世主を最優先にしろって言われてるからだ」

 鷹宗はぶっきらぼうにそう言うと、湖阿の腕を引いたまま咲蘭の居る方とは反対に歩き出した。

「志瑯様に言われたから仕方なくそうしてるんだからな!」

 湖阿は少し鷹宗を見直したと同時に、志瑯の言うことなら何でもやるんだと再認識した。
 鷹宗は敵である白虎族の長である遊真がいる所に行きたくて仕方がないはず。しかし、志瑯の言ったことを律儀に守っている。

 普段から気に入らない湖阿の保護をしようとしているのだ。

「私は一人で行けるから咲蘭の所へ行って!」

 鷹宗と会って比較的落ち着いた湖阿は立ち止まった。

「あいつなら大丈夫だ」

 次期長である咲蘭は強い。しかし、相手は青龍族から国を奪うほどの力を持つ族の長だ。

「でも、相手は……」
「あいつだから大丈夫なんだ。行くぞ!早くしろ!」

 湖阿は鷹宗の言葉が引っかかったが、鷹宗に腕を強く引かれ歩き出した。

 なぜ咲蘭だから大丈夫なのか……考えても全く分からない。実は誰よりも強いからなのだろうか?



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