異人乃戀
しばらく歩いて鷹宗に連れて行かれたのはいつもの志瑯たちが集まっている部屋だった。
中には志瑯と咲蓮の二人が居る。
「湖阿様、何もありませんでしたか?」
咲蓮が苦笑して言った。
湖阿が部屋から居なくなって所在が分からなくなったのと何者かが侵入してきたのが重なった為、皆が探していたのだ。
湖阿も苦笑すると鷹宗を見た。冷静に言えるほど落ち着いていない。何を言っているか分からなくなるのがオチだ。
志瑯はそんな湖阿に気付いたのか、鷹宗を見た。
「鷹宗、何があったんだ?」
「……白虎族の虎猛遊真が侵入してきました。今、咲蘭がこいつ……救世主殿、を逃がすために戦っているらしいです」
救世主殿の言い方が嫌みに聞こえたが、気にする余裕はない。咲蘭が気になって仕方がないのだ。
「咲蘭が……」
「鷹宗、咲蘭の応戦に行け」
鷹宗は何か言いたそうな顔をしたが、すぐに部屋を出て行った。
咲蓮の様子が少しおかしいのに湖阿は気付いた。咲蓮が遊真と戦っているのを心配しているのだろうと思ったが、少し違う気がした。
咲蘭と遊真は何か関係してるのだろうか。
湖阿が咲蓮を見ていると、咲蓮が湖阿の方を向いた。
「湖阿様、お部屋へ戻られるか?」
湖阿は一人になるのが嫌で首を横に振ろうと思ったが、頷いた。
敵族が侵入してきたのだから、また話し合いでもあるはずだ。その邪魔になるといけないと思ったのだ。
「……咲蓮、後のことは頼む」
志瑯はそう静かに言うと立ち上がった。
「珮護も入れて話し合いをしてくれ。また話は聞く」
「志瑯様が居なければ……」
「湖阿から詳しく話を聞かなければならない」
志瑯は唖然としている湖阿の手を引くと部屋を出た。
湖阿は志瑯が居てくれることに感謝したが、何で居てくれるのか疑問に思った。なぜ一人で居たくないというのが分かったのだろう?
湖阿が少し手を引くと、志瑯は立ち止まった。
「志瑯……ごめん」
志瑯が居なければ満足に話し合いも進まないはずだ。しかし、志瑯は湖阿を心配して一緒に居てくれる。
「気にしなくていい。私が居なくても話は進められる。皆、優秀だ」
志瑯はそう言ってまた歩き出す。湖阿は安堵した。自分が居ても居なくても関係ないと言っている訳じゃない。みんなを信頼している。
「ありがとう、志瑯」
そう言うと、志瑯の横を歩き出した。