異人乃戀
部屋に戻った湖阿と志瑯は何を話すわけでもなく対面して座っていた。
何か話さなければと思うのだが、やっぱり何を話したらいいのか分からな
い。
湖阿は志瑯が苦手なわけではないのに何故話すことが見付からず、二人だと出だしがうまく行かないのか考えていた。
相手が切り出すのを待つタイプでなく、むしろ話し出すタイプの湖阿だが志瑯に対して、裏倭に来てからは全くうまく行かない。
全く知らない世界に来たからなのだろうか。
自分では元の世界と同じ気持ちのつもりだが、やっぱり何か気持ちの面で違うのかもしれない。湖阿の常識と違う世界に来たのだから。
それに、同じ気持ちでいたらこんなにこの世界に馴染めるはずがない。
「湖阿」
志瑯に呼ばれ、湖阿は飛んでいた意識を引き戻し、志瑯を見た。
相変わらず志瑯の容姿は思わず見とれてしまいそうだ。志瑯の隣を歩く自分を想像すると、ため息がでる。
志瑯の隣は凪のような人が一番似合っているとふと思った。
聡明で美しい凪ならずっと志瑯を支えられる。
思わぬところで感じた劣等感に、湖阿は少し胸が痛んだ。
しかし、湖阿にはその痛みが何なのかよく分からない。
「……部屋から出て何をしていたんだ」
「あ、えっと……誰かにこの世界について教えてもらおうかなぁと思って」
湖阿は凪の名前を出すか出さないか考え、止めた。あまり名前を出してほしくないかもしれない。
「凪に教わろうと?」
まさか志瑯の口から名前が出るとは思わず、湖阿は口を濁した。
「……凪をどう思う?」
「優しい人だと思う。聡明そうで……少ししか話さなかったけど、強い人じゃないかなって」
湖阿が話した一瞬で感じた凪のイメージでしかないが、間違っている気がしない。
「その通り、凪は強い。青龍族の女の中で一番と言っていいほど頼りになる」
「凪さんのこと信頼してるのね」
なのに、なぜ二人の間には何も無いのだろう?信頼しているからこそ傷つけたくない?
大切だからこそ何もしない。志瑯にはそれがしっくりくる気がした。
「凪のことを誰かに聞いたか?」
湖阿は凪のことを志瑯がどう思っているのか気になって仕方がなくなった。お節介かもしれないが、何かあるなら協力出来ると思ったのだ。
「うん……。ねぇ志瑯、答えたくなかったらいいんだけど……凪さんのこと……」
「湖阿」
聞き覚えのある声と共に耳に生暖かい風が急に当たり、湖阿は叫んで立ち上がった。