異人乃戀
湖阿が涙目になりながら横を向くと、夜杜がいた。
「久しぶり」
「ちょっと!」
湖阿が意見しようと立ち上がると、夜杜は湖阿の腕を掴んで廊下まで引っ張った。
「青龍の長、ちょっと救世主借りるよ」
夜杜は部屋の志瑯に言うと、湖阿をさらに引っ張っていった。
「ちょっと、何よ」
湖阿が訳も分からず引かれていると、角を曲がった所で夜杜は止まり、手を離した。
湖阿の方を振り向いた湖阿に、何か違和感を感じた。
いつものように笑っているが、いつにも増して胡散臭いようにみえる。
それが何なのかは分からないが。
「全部の長の血筋と会った感想は?」
「え?……別に?」
いつものことだが、夜杜の問いは意味が分からない。
「ていうか、何で知ってるのよ」
遊真と会った時に夜杜は居なかったはずだ。
「神だから何でも知ってるんだよ」
答えになっていない気がしたが、神出鬼没で何処にでも突然現れるのだから、どこからか見ていてもおかしくないと湖阿は納得した。
それと同時にそうだとしたら何故助けに来なかったのかと怒りがこみ上げてくる。
「知ってるなら何で助けてくれなかったの」
湖阿が問うと、夜杜は苦笑した。
「神はあんまり手を出したらいけないからね」
神は基本的に中立でなければいけない。そして、神族として救世主に手を貸すことが出来ることは限られている。
湖阿は納得出来なかったが、納得するしかなかった。
この世界にいる限りはこの世界の常識を受け入れるしか無いのだ。
「……生きてるからいいけど」
湖阿は身震いした。もしあの時、風が出なかったらどうなっていたのだろう?
そして、咲蘭が来なかったら……。
「ねぇ、夜杜……救世主の特別な力ってある?」
あの風は一体何だったのだろう。湖阿に身の危険が迫った時に起きる風は湖阿自身が出したものなのか自分自身でも分からない。
「湖阿は神を味方につけてるからあるかもしれないよ」
「……神って夜杜?」
湖阿が問うと、夜杜は首を横に振った。
「神族じゃなくて、神。神族は他の族を見守る神の代行者だから」
湖阿は首を傾げた。話がややこしい。
「神族は神に変わってみんなの手助けをする。それと、救世主をし過ぎない程度に手伝うこと」
神族である夜杜はただの神族であって、神ではない。が、夜杜は神に近い存在だ。
神自ら手を貸しては、世界は良くならない。神の力は強大すぎて秩序が乱れる。
未来も知っている神が干渉しすぎれば、未来は大きく変わってその先は神にも想像出来ない世界となってしまう。
そうなれば世界は混沌と化し、破滅するだけ。