異人乃戀

 湖阿はただ首を傾げるしか無かった。この世界に来た時、夜杜は救世主に出来るのは子を産むこととただ居ることだけだと言っていたはずだ。

 なのに、なぜ?

 神を味方につけてるからっていうのもよくわからない。

「夜杜、私……人間だよね?」

 あんな風が体から出るなんて湖阿の常識で言ったらあるはずがない。しかも、湖阿はこの世界の民でもなんでもないのだ。

 よく考えればおかしい。

「人間だよ」
「でも、人から風が出るなんておかしいじゃない」

 湖阿が言うと、夜杜は可笑しそうに笑い出した。

「君はころころ考えることが変わるね」

 湖阿は恥ずかしくなって夜杜の肩を思わず叩いた。
 なぜか次々に疑問が浮かんでくるのだ。夜杜に会うと何でも聞きたくなる。

「……夜杜じゃないと聞けないから色々浮かぶのよ」
「他じゃあ答えはくれないからね」

 夜杜は何でも知っている。それに、夜杜はこの世界に来て初めて会った人だ。信用出来ないところもあるが、信頼は出来る気がしていた。

「君の望む答えをあげるよ。君は人間だ。見た目からして人間だから」
「……誰でもそれなら言えるわ」

 湖阿はため息をついた。夜杜は常にフザケているのを忘れていた。真面目に答えてもらいたい時ほど夜杜はフザケる。

「人間じゃないとも言えるけど、それを望んではいないだろう?」

 呆れていた湖阿だが、夜杜の今の言葉を頭が理解すると青ざめた。

「どういう……こと?」
「神の寵愛を受けているんだから普通の人じゃないし、神にも近い。それに、神がこんなに人を寵愛するなんてなかなか無い」

 神に近いと言えるだけで結論は人間ということだ。

「つまり……夜杜と同じってこと?」
「それでもいいけど、湖阿が人間じゃないってことになるよ」

 湖阿はやっぱり違うと首を横に振った。
 夜杜は神でも人間でもない存在だ。だから人間に干渉できるし、神にも接触出来る。

「……生まれた時はまだ人間だったけどね」

 夜杜は湖阿に聞こえないくらい小さな声で呟くと、湖阿の頭に手を置いた。

「今はまだ分からなくてもいつか真実は分かるよ」

 夜杜は笑うと、湖阿に手を振って消えた。

「……夜杜は色々知ってても教えてくれないってことね」

 湖阿はため息をつくと部屋に戻るために歩き出した。
 教えてくれたとしてもうやむやにしか言わない。結局は自分で答えを出さなければいけないのだ。



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