異人乃戀
資格
湖阿が部屋に戻るために歩いていると、前方から女が歩いてきた。
「湖阿ちゃん!」
「あ、楓さん」
楓は湖阿の部屋の掃除などをしてくれている青龍族の女性で、湖阿を救世主だからといって区別をしない。
「一人で出歩いたら駄目じゃない!」
「大丈夫ですよ。さっきまで夜杜居たし」
湖阿が言うと、楓は何か言いたそうな顔をしたが、ため息をついただけで何も言わない。何を言いたかったのかは予想がつくが。
「送っていくわ」
「もうすぐだし、大丈夫ですって。楓さんも用事あるんでしょ?」
楓は本当に急ぎの用なのか、躊躇いつつ、ごめんなさいね。と言って走っていった。
湖阿は楓のことを姉のように思っている。そして身近に感じていた。
初めて会った時に敬語を使わなくていいと湖阿が言うと、楓はすぐに敬語を使わなくなった。他の侍女はそれを言っても敬語をやめない。
自分が特別な人物だと思っていないだけ、楓の対応が嬉しかった。
湖阿がにやけながら角を曲がると、人にぶつかった。
「いったぁ……ごめんなさい」
湖阿が顔を上げると、鷹宗が眉間にしわを寄せて立っていた。
「なんだ、鷹宗か」
「どういう意味だよ」
鷹宗はさらに深く眉間にしわを寄せて睨んだが、湖阿は動じなかった。
「あんな事があった後で一人でよくアホ面下げて歩けるな」
馬鹿にしたような笑みを浮かべて言う鷹宗に、湖阿は腹が立ったがアホ面はともかく一人で歩いているのはもし遊真が居たとしたら危ない。
それに、湖阿は一人にはなりたくなかったはずだ。
「夜杜がさっさと帰っちゃったのよ。考え事してたし、気にならなかったっていうか……」
鷹宗は阿保かお前は。と言うと、辺りを見回した。
阿保という単語に言い返そうかと反応したが、自分でもそう少しでも思ってしまったため言葉が出遅れた。
「さっきこっちに誰か来なかったか?お前の部屋の辺から誰か走っていったけど」
「……楓さんがいたわよ。何で?」
湖阿が問うと、鷹宗は黙ってしまった。言うことが出来ない黙りではなく、考えているらしい。
人が居るのだから誰かが走っていることくらいはある。敵族の長が忍び込んで来ていたのだから、みんな慌ただしいはずだ。なぜそれを疑問に思い、不信に思ったのだろう?
「……もしかしてあいつ?あいつは!?」
遊真がまだ居て歩き回っているかもしれないと思うと鳥肌がたつ。