異人乃戀
鷹宗の言葉を待ったが、一向に鷹宗は口を開かない。
「ちょっと!質問に答えなさいよ」
「あ?……何が」
どうやら聞いていなかったらしい。
「だから、虎猛遊真は!っていうか、咲蘭は!?」
鷹宗は頭をかくと、目をそらせた。
「俺が行ったときには居なかったんだ。二人とも」
「二人って……咲蘭も?」
鷹宗は頷くと大きく息を吐いた。
鷹宗が行った時には既に二人の姿は無く、そこにあったのは壁に空いた穴だけだったのだ。
辺りを探したが二人は居らず、歩き回っていてここへ来たらしい。
一体二人はどこへ行ったのだろうか。遊真だけが居なくなったのならば帰ったと思える。いくら力を持っていようと、単身で適地に長居をするのは危険だからだ。
しかし、咲蘭まで居なくなったのはなぜだろう。
「まだこの屋敷にいる確率は低い。けど、咲蘭が居ないのが……」
神妙な顔をして確率がどうこうと分析する鷹宗に、不謹慎だとは思うが珍しく、似合わないと驚いていた。
「……おい」
「え?なによ」
「その腹が立つ顔どうにかしろ」
湖阿は頬を手で覆うと、それより!と開き直るように切り出した。
「ほら、咲蘭がもしかしたらいっつもみんなが集まってるとこに居るかもしれないじゃない」
「それは無い。逃げられたにせよ討ったにせよ終わったら皆が分かるように合図をすることになってるからな」
何かしらの合図がないということは、まだ応戦中か討たれたか……どちらかしかない。
次期玄武の長が合図を忘れるということは有り得ない。
「……どんな合図なのよ?」
「知らねー……」
鷹宗は眉間にシワを深く刻んで言うと、湖阿の横を通り越した。
「お前はさっさと部屋帰れ」
鷹宗は振り返って言うと、すぐに走って行ってしまった。
湖阿は言われなくても戻るわよ!と鷹宗の背中に向かって叫ぶと早足で部屋に向かった。
しかし、少し歩いてから立ち止まると、振り返った。
もし咲蘭に何かあったら……。
「私の……せいだ」
自分の軽はずみな行動でそんなつもりはなかったとは言え、他人を巻き込んでしまった。
巻き込んでしまったのに我が身の事しか考えていない。結局は自分のことしか考えていないのだ。心配をするフリをしているだけ。
湖阿は柱によろめくようにもたれ掛かると、へたり込んだ。
「……私、守られる資格なんてない。こんな私が救世主なわけ……ない」
守ってくれた人の心配さえできないのに、大勢を救う事なんて出来るのだろうか?そんな考えが頭を駆け巡る。
自分が危険な目にあえば誰だって自分の身を第一に考える。それが普通だが、湖阿はそんな自分が嫌に思えて仕方がなかった。