異人乃戀

「一人にならなきゃよかった」

 一人になると余計なことを考えてしまう。湖阿はため息をつくと心を落ち着かせるために目を閉じた。
 落ち着かせようとするのだが、余計なことまで考えてしまう。
 咲蘭に何かあったら責められるのだろうか?責められないにしても、皆悲しみ心の中では憎く思うんじゃないだろうか?
 来て日が浅い自分が死んでも、悲しむ人は居ない。悲しんだとしても湖阿という一人の人間じゃなく、救世主が死んだから、だ。

 考えれば考えるほど泥沼にはまるように、悲観的な考えから逃れられない。
 湖阿は額を壁に軽くぶつけると早く部屋に戻ろうと目を開いた。そして、ふと横を向くと目の前に金髪の少年が居た。

「こんにちは」
「こ、こんにちは」

 ここにこんな子が居ただろうかと考えるが、全員を見たことがあるわけじゃないため分からない。

「えーと、誰?」
「カミだよ、カミ」

 湖阿がはあ、と言うと少年は湖阿の額を結構な力で弾いた。
 予想もしなかったことに、湖阿は額をさすりながら少年を驚いた顔で見ると、少年は意地の悪そうに笑った。

「分かってないよね?」
「……全然」

 湖阿が正直に言うと、少年は心底呆れた顔をした。こんな少年に呆れ顔をされるほどのことなのだろうか?
 カミという名前で何を分かれというのだろう。

「名前……?」
「……僕に名前はないよ」

 ややこしい。だったらカミとは何なのか。

「だったらカミって……。って、名前が無い?」

 名前が無いのはおかしい。生まれたらだれだって名は貰うものだ。
 少年は頷くと湖阿に手をさしだした。

「当たり前だよ。人の子じゃないんだから」

 湖阿が少年の手をとると、手を引き湖阿を立たせた。

「人の子じゃないって……」
「何ていえばいいかなぁ。予想外な馬鹿な君が分かるように説明すると……夜杜の上司」

 年下に馬鹿呼ばわりをされ、さすがに湖阿も腹が立った。意地でも分かろうと思ったが、さらに分からなくなった。
 こんな少年の下で夜杜が働いていると思うと、思わず笑いそうになった。
 少年だからというより、夜杜が誰かの下でということに。

 夜杜の上司ということは神族も他と同じように何人もいて、族長がいるということか?
 または、神自身か……。神ならば分かるのだが、神がこんなとこにいるはずがない。

「……分からない?」

 馬鹿と目で言っている。

「分かったわよ、神でしょ!」

 半ばやけくそで笑われるの覚悟で言うと、少年は微笑んだ。まるでお伽話の小さな王子様のようだ。

「当たり。まぁ、及第点をあげる」
「え?ちょっと待って、神?」

 湖阿が聞き返すと、少年は頷いた。


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