異人乃戀

 湖阿が呆然と二人を見ていると、少女が湖阿に近付いてきた
 少女は湖阿の顔を凝視すると、微笑んだ。愛らしい桃色の頬に湖阿は思わず触れそうになった。

「かっちゃん、あたしこの子好き」

 少女は鐵に言うと、湖阿の腕に腕を巻き付けた。

「へぇ、意地悪しないんだ?」

 少女は頬を膨らませると、首を振った。そんな少女を見ながら、湖阿は小動物みたいだと頬を綻ばせていた。

「最初はえーって思ったけど、あたしの嫌いなタイプじゃないもん」
 少女は湖阿を必然的な上目遣いで見つめると、花が咲くような満面の笑みを見せた。
 この少女が何者かは分からないが、好かれているのだから悪い気はしない。

「かっちゃんとか夜杜ちゃんの好きなタイプが嫌ーい」
「僕じゃなくて夜杜だろ」

 夜杜がどうとか鐵がどうとか全く会話に入れず二人を交互に見ていたが、湖阿はため息をついて見るのをやめた。すると、二人が同時に湖阿を見た。

「志瑯ちゃん好きな麻耶(まや)にしたら邪魔かもね」

 少女が言うと、鐵が笑った。
 この会話に入るべきはずなのに、一人置いてけぼりにされている湖阿はこの場からどうしたら抜けられるのかをひたすら考えていた。

 会話の内容は気になるが、怪しい二人から早く離れたい。
 鐵が神だというのは分かっているが怪しい。そして、この少女が誰なのか。神と親しいということは……。

「ねぇ、湖阿ちゃんどっち?」
「え?」

 急に話を振られた湖阿だが、全く話を聞いていなかったため答えようがない。

「聞いてなかったのー?」
「え、あ……うん」

 少女はもー。と頬を膨らませると湖阿の側から離れ、鐵の隣にいった。

「仕方ないよ。ぼーっとするのが好きらしいから」
「見かけによらずのんびり系ってこと?」

 湖阿は抗議しようとしたが、やめた。抗議してもまた何かを言われるだけだ。

「ねぇ、あなたは鐵だってことは分かったわ」
「案外馬鹿じゃなかったんだ」

 頭にきたがどうにか押さえる。どうしてこんなに人を馬鹿にするのだろう?神として上にいるからなのだろうか。

「あたしが誰か知りたいって事ね。あたしは神族の姫奈(ひめな)。またの名はティアラね」

 姫奈はちょこんとお辞儀をすると、再度湖阿の腕に抱きついた。

「麻耶からあたしが守ってあげる」

 満面の笑顔でどこか妖しく笑う姫奈に湖阿は苦笑いをした。
 守ると言われても麻耶が誰なのか分からない。それに、どういう意味で守るのだろう?知らない人に恨まれる覚えなんてない。

「何で?みたいな顔してるけど……」
「恨まれる覚えなんてないわ」
「さっきの話聞いてなかった?」

 湖阿が首を横に振ると、そう。とだけ言い、言う気が無いようだ。

「まぁいいよ。根暗なアイツが呪いとか変なことしない限りは守れるから。ね」


 湖阿は若干不安になったが、敢えて聞かないことにした。




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