異人乃戀
「あの……」
夜杜と目が会うと、優しく微笑んでいるのに奥にある威圧感のようなものが身体に纏わり付くような妙な感覚になる。
教師に噛み付く湖阿でも、この威圧感には勝てないらしい。
「そんなに怖がらなくても大丈夫」
立ち上がった夜杜は湖阿に近付くと、手をのばした。肩を掴まれたかと思うと、湖阿の身体は後ろへ傾き、気付いた頃には夜杜に押し倒されていた。
何が何だかまだ理解できない湖阿は怪しげに微笑む夜杜と目が合った。
「……何の冗談ですか?」
「冗談じゃないよ」
身体の下が床ではないのに気付き少し横を向くと、布団の上だった。夜杜は湖阿が横を向いたのをいいことに、湖阿の首に顔を埋めた。
首にかかる夜杜の生暖かい吐息に、背筋がぞくぞくするのを感じた。太腿の辺りをまさぐる手をどうにかしようと思うが、声が出ない。
「……ゃ、やめ……」
何とか絞り出した声も、夜杜に手で口を塞がれ消えてしまった。
自分がどうなるのかを想像した湖阿は、自分の貞操を守るためにはどうすればいいのか、少しばかりの抵抗をしながら必死に考えていた。
段々上へ移動してくる手に、湖阿は夜杜を睨み付けた。すると、夜杜は急に笑い出す。
「湖阿、君は……処女だね」
「は?」
思いがけない言葉に、湖阿は目が点になった。そして、それと同時に怒りが沸々と沸き上がってくる。
「……ざけんな!」
ありったけの声を出して叫ぶと、夜杜は少し顔を歪ませた。
「その割には……逃げようとしないんだね」
湖阿は顔を真っ赤にすると、力を緩めた夜杜の手を退けた。
「逃げられないものだよね」
そう言いながら湖阿から離れると、湖阿の右腿を指差した。
「龍はやっとで救世主を見付けたようだ」
右腿には青い龍を象った入れ墨のような印が。湖阿は起き上がると、印を凝視した。
「いや、龍だけではないな……」
夜杜は湖阿の右腿を引き寄せると、印に触った。
「な、何すんのよ!」
湖阿が叫んだとほぼ同時に印が光を発し、消えたかと思うと、印の模様が変わっていた。