異人乃戀
湖阿が去ると、そこに一つの影が現れた。そして、その数秒後に一点が光り、中から二つの影が現れた。
「夜杜ちゃん」
後に現れた影の一つの姫奈が先に現れた夜杜をのぞき込むと、湖阿の去った方を見ていた夜杜はなんでも。と首を横に振った。
「嘘だ。僕に何か聞きたいことでもあるんだろ」
鐵が言うと、夜杜は姫奈の頭を撫でながら鐵を見た。
「別にかっちゃんに言いたいことなんて無いよ」
「嘘を言うな。神族の長の役目の一つだろ」
夜杜はやれやれ、と胡散臭くため息を吐くと苦笑した。
神の代行者であり神族の長である夜杜の役目は、救世主の手助けだけではない。
神の行動を監視し、干渉しすぎないようにするのも勤めなのだ。
「そこら辺は姫奈と麻耶に任せてるし、姫奈が何にも言わないなら問題ないよ」
姫奈は無い無い。と首を振って鐵の後ろへ行った。
姫奈ともう一人の麻耶は夜杜から神の監視者としての役目を受け、常に神と行動を共にしている。
鐵が神としての線を越えようとしたときに止めるのが二人の役割だ。
「それに、かっちゃんの方が分かっているはずだしね」
鐵は当たり前というように笑うと、夜杜に向かって手を差し出した。
「救世主のことよろしく頼んだ」
「精一杯出来ることはやらせてもらいますよ、神」
夜杜は馴れ馴れしい敬語で言うと、跪いて鐵の手を取り額に当てた。
これは神族が神に忠誠を誓い、言われたことをやり遂げるということを誓う行動だ。
「……夜杜もそろそろ疲れただろ」
鐵は声を潜めて言うと、光の中に消えた。
残された夜杜と姫奈は鐵を見送ると、目を合わせた。
「夜杜ちゃん、本当に湖阿ちゃんに会いに来ただけだからね」
「分かってるよ。あの人が余計なこと言うはずないしね」
ただ一人のためにこの世界を滅ぼすようなことになるのを勿論、鐵は望んでいない。
神の言葉は間違えば全ての未来を変えかねないのだ。
「麻耶は?」
「置いてきた。だってーあの子会いに行くのは絶対ダメって言うんだもん」
姫奈は頬を膨らませると、夜杜は宥めるように姫奈の頭を撫でた。
「麻耶にも麻耶なりの考えがあるんだよ」
「分かってるよー」
「普通に考えたら会わせたらいけないけど」
夜杜の手から逃れるように離れると、姫奈は夜杜に向かって舌を突き出した。
「小言ー。夜杜ちゃん最近丸くなり過ぎー」
「はいはい。帰ろうか」
夜杜が分かっているとでも言うように苦笑すると、姫奈はまだ納得できていないようだが返事をすると、消えた。
「……本当に丸くなったよ」
再度苦笑してため息を吐くと、消えた。