異人乃戀
護り
湖阿が部屋に戻るとそこに志瑯の姿は無かった。
待っていてと言わなかったにしても、居なくなっていると残念で寂しく感じる。
さっきまで鐵や姫奈がいて賑やかだったからなおさら、一人でいると寂しい。
神と神族。神族は夜杜一人だけだろうかと思ったが、他の族と同様に何人か居るのだろう。神が居るのだから。神族の夜杜が神なわけではない。
湖阿は鐵とここに来る前に出会っているということが今更だが疑問に思えてきた。
あの時に鐵という名前を与えなければ、餌を与えたり頭を撫でたりしなければこの世界に来なかったのではないか。
何気ない行動がこの世界と湖阿を結びつけたかと思うと、思わずため息が漏れてしまう。
小学生の時の行動が今に繋がるなんて誰が想像出来るだろう。
ただ犬が居たからの好奇心と薄汚れていて可哀想だと思っての行動。
他にも鐵を可愛がった人が居るはずなのに、なぜ湖阿なのか。
「……鐵って名前を気に入ったからとか?」
湖阿は呟くと寝転がった。
我ながらすごい名前を付けたと思う。勉強は嫌いだったが、漢字が好きだったため、その日新しく覚えた難しい漢字を名前に付けたのだ。
考えても答えにはたどり着きそうも無いと思った湖阿は、他のことを考えることにした。
この国では湖阿が一人で考えても、答えにたどり着けないことばかりだ。
珮護が持ってきた本のことを思い出し、寝たまま転がると仰向けの状態で本を開いた。
相変わらず何が書いてあるのか分からない。
「んー……読めないって不便」
何とか読めないかと目を凝らして本を見ていると、誰かが部屋の前に来た。
「湖阿」
唸りながら頭を働かせていたため、声が聞こえなかった。
「あ!」
湖阿が起きあがると同時に戸が開き、戸口に志瑯が立っていた。
「……し、志瑯」
まさか志瑯が来るとは思わなかったのと、いきなり人が入って来たので驚いて湖阿は目を見開いていたまま止まった。
「すまない。返事が無かったから開けたんだが……」
湖阿は本を置くと慌てて着衣を直し、立ち上がった。
「入ってもいいか?」
「あ、うん」
湖阿が頷くと、志瑯は部屋の中へ入った。