異人乃戀
弐§日常
勉学
湖阿が裏倭に来て早一ヶ月が経過していた。
来たばかりの頃のように命の危機に晒されることもなく、平和な時を過ごしていた。
志瑯達は相変わらず、国奪回の為の策を毎日のように話し合っていたが、未だ良い案が出ないのか、表情は暗い。
朱雀族の一部が力になってくれるおかげで以前よりは、幅広い策を考えることができるようになったが、どれも確実な策ではなかった。
実際に出来るのか分からない策に出るには白虎族の勢力が強すぎる。
もっと確実な策でなければ、白虎族との戦には勝てない。
湖阿は話し合いに参加は出来ないが、珮護から話を聞き、歯痒く感じていた。
救世主なのに何も出来ない。
湖阿はせめてこの世界については知っておこうと思い、珮護に持ってきてもらった本で勉強を始めたが、一ヶ月経っても裏倭の知識は以前と変わらなかった。
本を読んでも文字が読みにくく、内容も理解し辛い。
凪に教わろうと考えていたのを思い出すこともあったが、行き辛かった
「珮護、どうしたらいいと思う?」
珮護の部屋まで押しかけた湖阿は、本とにらみ合いながら言った。
湖阿が珮護の部屋に行くのはよくあることだった。湖阿にとって珮護は兄や弟のようで、一番自然体で居られる。
「湖阿、俺も一応忙しいんだけど?」
珮護がため息をついて言うと、湖阿はごめんと軽い調子で言った。
青龍についた朱雀族の民をまとめるために珮護が奔走しているのは湖阿も知っている。が、それとこれとでは話が別だ。
「どうしたらいいと思う?」
「人の話聞いてるか?」
湖阿は珮護の言葉を聞かずに、唸り始めた。良い考えが浮かばない。湖阿に教えることが出来る程知識が豊富で時間がある人物など、湖阿の知る限りでは居なかった。
侍女に頼んだこともあったが、やんわりと断られてしまい、それ以来頼んでいない。
「……志瑯に相談すればいいだろ?」
珮護が言うと、湖阿は顔を明るくしたがすぐに暗くなった。
遠くにいる志瑯を見かけたことはあっても、一週間ほど顔を会わせていないのだ。
志瑯は忙しい。そう思うと会うのに気が引ける。それに、会いに行くとしたら志瑯の自室だ。珮護に忠告されてからというもの無意識のうちに二人になるということを警戒していた。
しかし、今はそれどころではない。このままでは何も知識が無いまま諦めてしまいそうだ。
「……そうだよね。それが一番いいか」
湖阿は頷くと珮護に礼を言い、部屋を出た。