異人乃戀

 志瑯の元に行くと言い、志瑯の部屋の前に来たものの、湖阿はなかなか入ることが出来なかった。

 久しぶりに会うため、どんな顔をしたらいいのかが分からない。

 そもそも部屋に居るのだろうか?と行くのを止めようかとも思った。
 うじうじしているのも自分らしくない。と、湖阿は声を掛けてみた。

「志瑯ー?」

 声がするのを待ったが、いくら待っても返事はない。また今日も咲蓮たちと会議をしているのだろう。
 しかし、今は昼食の時間帯だ。いつもなら午前の会議は昼には終わるのだが、今日は違うのだろう。

「いっつもなら部屋に戻って昼ご飯食べてるのに……」

 ため息をつくと、湖阿は部屋に帰ろうと歩き出した。
 また一人で解読しなければならないと思うと、ため息が出そうになる。
 この世界に来て何回ため息をついただろうか。元の世界に居るときの一年分はこの短期間にため息をついている。

「おお!」

 後ろから大声が聞こえ、驚いて振り向くと深紫色の髪をさた男が湖阿を指さして、口を開けて立っていた。
 男は手に持っていた本を猛スピードで開くと、湖阿と本を交互に見た。

「やっぱりか!君はあっちの世界の女子高生という人種の人だね!」

 男は眼鏡をかけ、再度湖阿を上から下までじっくり見た。
 この世界にきてから見たことの無い人物だったため、湖阿も見返したが、じろじろ見られいい加減腹がたってきた。

「ちょっと、あんた誰……」

 湖阿が口を開くと、男は湖阿の隣に移動し湖阿の肩に腕を回すと、開いたページを湖阿に見せた。

「うん、本当にこの資料と同じだ」
「……セーラー服。何で本に描いてあるの?」

 男は本を閉じると表紙を見せた。表紙には手書きで題名か何かが書いてあるのだが、読めない。

「……何て書いてあるの」
「もしかして……読めないのかい?」

 男が驚いた顔をすると、湖阿は肩に回されていた腕を振り払った。

「すぐに読めるわけないじゃない。元の世界の文字と全然違ったんだから」

 初めは読めそうだと思ったのだが、いざ読もうと思うとほとんど分からなかった。
 読めそうなところもあったのだが、内容は理解出来なかった。

「あっちの世界から来た者は満足に字が読めないのも付け足すか」
「なんか馬鹿にしてるみたいで腹立つんだけど」
「でも、本当だろう?救世主殿」

 嘲笑を含む笑みに、湖阿は本気で殴ろうかと思った。



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