異人乃戀
「志瑯に裏倭について学びたいんだけど、誰か教えてくれるよな人がいないかって私が言ってたって伝えておいてくれない?」
湖阿が言うと、咏は自身を指差した。首を傾げた湖阿だが、何者かを思い出した。
「……遠慮しておくわ。わざわざ志瑯の片腕に教わるなんて気後れするし」
心中ではそんなことを思って無いのだが、断りやすいだろうと思い、敢えてこの言葉を選んだのだ。しかし、それは間違いだったようだ。
「遠慮しなくてもいい。しー様にも俺を推薦するだろうしな。ここで一番知識があって、しー様な信頼されてて、時間があるのは俺くらいだ」
「別に遠慮してるわけじゃないわよ!」
「良いって良いって。手取り足取り教えてやるから」
咏に手を掴まれ、寒気がし、離そうとしたが離れない。
湖阿がどうしようか悩みながら笑顔の咏を睨んでいると、咏がふと目線を湖阿の後ろに向けた。
咏の視線を追い、振り向くと志瑯と鷹宗が立っていた。今会議が終わったばかりなのだろう。鷹宗は両手に抱えるくらいの書類や本を持っている。
「……何やってんだ、お前」
鷹宗がいつものように眉間にしわを寄せて鋭い目つきで言った。しかし、いつもと違うのは鷹宗が睨む相手は湖阿では無く、咏ということだ。
「しー様と鷹宗、今終わったのか」
「ああ。咏、後で話がある」
志瑯が言うと、咏は笑顔で御意、と頷いた。その笑顔は湖阿に向けた物とは違って、志瑯を敬う気持ちが表れている。
湖阿は咏の隣に立ちながら、志瑯は愛されているということを感じていた。
「……おい」
肩を叩かれ、顔を上げると不機嫌そうな鷹宗が近くに立っていた。
「何よ」
「お前、咏とどんな関係何だ?」
「別に何でも無いけど……」
鷹宗の目線の先を見た湖阿は、慌てた。すっかり意識していなかったが、まだ咏に手を握られたままだったのだ。
手を引き戻すと、咏も忘れていたのか案外すんなり手は離れた。
「……こいつの悪い癖か」
「ええ。そうみたい」
湖阿がはっきり答えると、それを聞いた咏は苦笑した。
「酷いな、二人とも。……ただ、自分の欲望な素直なだけだけだろ」
爽やかな笑みを浮かべる咏に、湖阿と鷹宗はため息をついた。