異人乃戀

「何これ?……何したのよ!」

 印は色は青のままだが龍だけでは無く、虎、鳥、亀も描かれていた。

「君は……最も厄介な事に巻き込まれたね」
 笑って言う夜杜の胸倉を掴むと、夜杜を睨み付けた。パニック状態の湖阿は相手がどんな格好をしていたって、自分が何をしていたって気付かない。

 たとえ相手を押し倒していようと。

「どういうことなのよ!ねぇ!」
「湖阿は攻めなんだ?」
「は?」

 湖阿は自分の体制に気付くと、慌てて離れた。

「とにかく、説明して」

 湖阿は夜杜の顔を見ないようにして座ると、そっぽを向いた。

「……簡単に言うと、君は救世主だ」
「救世主?」

 湖阿は首を傾げた。
 裏倭には青龍族、白虎族、朱雀族、玄武族という四つの族が住んでいる。
 青龍族は主に武術を。白虎族は盗賊。朱雀族は幻術、玄武族は召喚術を最も得意としているのだ。
 その四族の間で戦がおき、勝利をした青龍族が長年裏倭を治めてきた。
 しかし、つい一月ほど前、長年にわたって力を溜めてきた白虎族が朱雀族の一部と手を組み都を襲い、占領してしまったのだ。
 若き王、采龍志瑯(さいりゅうしろう)は幻術によって永遠の眠りにつき、今は助けを求めた玄武族長の屋敷にいるらしい。

 そして、玄武族が召喚術によって救世主を呼び寄せた。

「……夢?」

 湖阿が呟くと、夜杜が湖阿の頬を引っ張った。

「痛いってば!」
「夢じゃないだろう?」
「……で、救世主は何なの?」

 夜杜は優しく微笑むと、湖阿の口元を指差した。

「まず、裏倭の王にかけられている呪術を解く」
「無理」

 即答すると、湖阿は夜杜を見た。普通の女子高生が呪術など解けるはずがない。

「どうやって解くっていうの?白雪姫みたいにキスすれば目を覚ますとか?」

 自分が何の力も持っていないということを主張するように半ば自棄(やけ)になって言うと、夜杜は笑い出す。

「大当り」
「は!?」

 湖阿は目眩をおぼえ、頭を抱えるようにして前のめりになった。まさか、そんなことがあるなど誰が思うだろうか?

「まぁ、正式に言うと、誰も王にしないようなことをして、ダメージを与えればいいんだけどね。……あれ?」

 湖阿はうずくまったまま、唸っていた。なぜ突然知らない世界に連れて来られて、知らない男に襲われて、見たことも無い男とキスをしなければならないのだろうか?と。

 考える暇も無く色々あったため、今になって不安が波のように押し寄せてきた。



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